お題「時計はアナログ派? デジタル派?」
腕時計
バブル景気に沸いた頃、スーツの縞も太ましいオッサン2人の会話が聞こえてきてコケそうになった事がある。
「ローレックスとかいう時計、人に勧められて買うたんやが。全っ然ダメや!」
「ナニ、駄目なんか?」
「1日一分も遅れるんや!今どき、千円時計でもそんな事ないのに、アレじゃ使えんわ!」
「それあダメやな!」
いやまあ、時計としてはそういうモノかもしれないが。ロレックスの価値はケースにあるので、中の人…ぢゃなかったムーブメントはレマニア製とかを買ってきてたし、クォーツ・ムーブメント以上に正確な機械式腕時計なんて無理だし、知らない人だし、説明しても無駄なので、笑いを堪えるだけで精一杯だった。
現用腕時計
だいたいその頃、自分も雑誌のキャンペーンに乗って購入したスイスの機械式腕時計を今でも使っている。
見ればわかる通り、某R社「エクスプローラー」のそっくりさんで、特徴は裏蓋がスケルトンな程度か。
見た目に反して耐水性は30m防水とたかが知れていて、実際に水が入って慌てたこともある。何でそんなモノを買ったかというと、もちろん見た目もあるが、スイス製なのに一万円ちょうどと、安い買い物だったからである。聞いたことのない銘柄だし、量産型の ETAムーブメントだし、1日1分くらいは遅れるし、7年も使えば動かなくなり分解掃除が必要だし、分解掃除の修理代が1万2千円と購入額より高くついたりはするけれど、この手の機械は修理して使うものであろう。
使わなくなった腕時計
従兄の結婚式もあり、フォーマル用も買った。精確で安く薄型にできるのは、クォーツ式の良いところ。古典的な文字盤と針に革ベルト、これで十分。軽く安ピカな見た目にあまり愛着は湧かないものの、それなりには使い、今では使っていない。何故かというと
ベルトの穴がイカれてしまい、交換するしかない。電池交換共々、時計店に行けば良いのだけど、つい後回しにしてしまう。 他にもクォーツ式は、ソーラー電波時計を含めて数個買ったが、10年〜20年くらいで動かなくなり、修理もできなくなり廃棄した。今やこの国では、廃棄された腕時計はかなりの数になるはずで、特に安い時計は飽きて捨てられたものも多いことだろう。思えば寂しい事ではある、どうしようもないのだろうか。
壁掛時計
時計というより、温湿度計として使っている。写っていないが、LED点滅で天候予測もする。ムーブメントは CITIZEN のクォーツだが、made in china だった。あーあ…
嘗ては柱時計というものが一家の中心にあって、ゼンマイのネジを巻くのは男の仕事だった。カリカリと立てる音に、一種の充実を感じたものだ。時代と共に技術は進み便利にはなったけれど、家族の在り方も変わってしまった。
置時計
アパート住まいの今では使っていない。子供の頃は勉強部屋にあって、問題集を解く制限時間を計ったり、基礎英語のラジオ放送を聞いたり、朝の目覚ましを鳴らしたりに使っていた…と思う。
機械式ディジタル置時計
今ではアナログ時計ばかりだけれど、中高生の時分にはそうでもなかった。特に中学生の頃は、日めくりカレンダーみたいな数字の文字板がパタパタ動く、機械式ディジタル置時計を頼りにしたものだ。
パタパタ時計とかフリップクロックとかいって、今でも地道に造られてはいるようだが、その頃にはセイコーだのシチズンだの、大手時計メーカーが挙って製造販売し、値段も高くはなかった。
1分に1回きりパタンと動くから、何となく生きているもののように感じた。あれがうるさいという人もあるけれど、よほど静かな環境でないと聞こえない。比べると、液晶ディジタルが見にくく感じるのは、あのセグメント表示が表示要素をとことんケチっているのもあるが、こんなに文字を太く大きくできないからだろう。空港や主要駅の運航表示も似たような仕組みで、発着の度にバタバタバタぐががががと、此方は今にもぶっ壊れそうな勢いで回ったものだが、不思議と壊れたところは見た覚えがない。クォーツ・ムーブメントは未だ普及せず、振り子が動くようでもなく、コンセントに挿して使う時計のムーブメントはどうなっていたか調べたら、シンクロナス・モータ(同期電動機)を減速しているだけだった。
これは電源周波数に同調して回るモータで、ゆえに電源周波数の切り替えが付いており、停電したら動力が止まるだけでなく、計時も止まる事になる。だからなのか、フリップクロックに秒数表示はない。至って無駄のない設計で、これを考えた技術者は物事が解っている。ただ時計合わせは一方通行で逆回転はできないから、1分だけ早くなってしまうと、59分巻き上げるしかない。秒単位で時計を合わせることもできないから、表示時刻の精確は今一つで、そこら辺が廃れた原因だろうか。実家住まいのその頃は、この交流式が幾つもあったが、みな壊れて捨ててしまった。可動部の多い機械は、その分、故障も多くなる。リサイクルなど考えていなかった当時、捨てた時計がどう処理されたか、知るのが怖い気もする。
文学史上の時計
たぶん、他にもあるとは思う。
『クリスタベル姫』の大時計
第一部冒頭に「お城の時計」を置くことで、真夜中の出来事であると示している。動力は何だったのだろう?
バイロン卿とポリドリ博士の懐中時計
ポリドリ博士の日記に拠れば、ジュネーブに着いて直ぐ、この2人は時計店に赴き、買い物をしている。
5月27日 起床。ボートを探しに行き、1日3フランのボートを手に入れ、セシュロンまで漕ぐ。朝食。(中略)
舟から上がると、バイロン卿はメアリ・ウォルストンクラフト・ゴドウィンとその妹、そしてパーシー・シェリーと会いにいった。私はレマン湖の真ん中へボートを乗り出し、揺蕩う舟に身を任せた。
(中略)
食事。『マブ女王』の作者パーシー・シェリー来訪。(中略)カラシュに乗り込み、ジュネーブの時計店へ。時計に支払ったのは、バイロン卿15ナップ、私は13。リピータといい、分針といい、呆れた時計だ。
原文に nap とあるのは、どうやらナポレオン金貨(20フラン)のことらしく、それならバイロン卿300フラン、ポリドリ博士260フラン。当時の20フランが1万円相当であったなら、それなりの値段か。リピーター付なら、むしろ安いかも。1819年当時なら、懐中時計用リピーター(1783)を考案したアブラアム=ルイ・ブレゲが存命であったから、この職人であってほしいのだが、違うかもしれない。ブレゲはリピーターを秘密にはしなかったのか、1804年にはリピーター解説書が出版されていた。
フランス語が読める時計職人は、挙ってこの本を求めたであろうから、1816年にはジュネーブのどの時計店でも、リピーター付き懐中時計をラインナップしていたに違いない。残念ながらどの時計店かは記されず、またこの時計はポリドリ家に伝わっていなかったのか、日記を編集出版した甥のロセッティは、その詳細を記していない。バイロン卿のものなら遺っているかと思ったが、2人とも何処にやったのか、いくら検索しても出てこない。何かご存知の方は教えてください。