À FUTUR*1
まつてゐるのは誰。土のうへの芽の合奏の進行曲である。もがきくるしみ轉げ廻つてゐる太陽の浮かれもの、心の日向葵の音樂。永遠にうまれない畸形な胎兒のだんす、そのうごめく純白な無數のあしの影、わたしの肉體は底のしれない孔だらけ……銀の長柄の投げ鎗で事實がよるの讚美をかい探る。
わたしをまつてゐるのは、誰。
黎明のあしおとが近づく。蒼褪めたともしびがなみだを滴らす。眠れる嵐よ。おお、めぐみが濡らした墓の上はいちめんに紫紺色の罪の靄、神經のきみぢかな花が顫へてゐる。それだのに病める光のない月はくさむらの消えさつた雪の匂ひに何をみつけやうといふのか。嵐よ。わたしの幻想の耳よ。
わたしをめぐる悲しい時計のうれしい針、奇蹟がわたしのやはらかな髪を梳る。誰だ、わたしを呼び還すのは。わたしの腕は、もはや、かなたの空へのびてゐる。青に朱をふくめた夢で言葉を飾るなら、まづ、醉つてる北極星を叩きおとせ。愛と沈默とをびおろんの絃のごとく貫く光。のぞみ。煙。生。そして一切。
蝙蝠と霜と物の種子とはわたしの自由。わたしの信仰は眞赤なくちびるの上にある。いづれの海の手に落ちるのか、靈魂。汝は秋の日の蜻蛉のやうに慌ててゐる。汝は書籍を舐る蠧魚と小さく甦る。靈魂よ、汝の輪廓に這ひよる脆い華奢な獸の哲理を知れ。翼ある聲。眞實の放逸。再び汝はほろぶる形象に祝福を乞はねばならぬ。
靡爛せる淫慾の本質に湧く智慧。溺れて、自らの胡弓をわすれよ。わたしの祕密は蕊の中から宇宙を抱いてよろめき伸びあがる、かんばしく。
わたしのさみしさを樹木は知り、壺は傾くのである。そして肩のうしろより低語き、なげきは見えざる玩具を愛す。猫の瞳孔がわたしの映畫の外で直立し。朦朧なる水晶のよろこび。天をさして螺旋に攀ぢのぼる汚れない妖魔の肌の香。
いたづらな蠱惑が理性の前で額づいた……
何といふ痛める風景だ。何時うまれた。どこから來た。粘土の音と金屬の色とのいづれのかなしき樣式にでも舟の如く泛ぶわたしの神聖な泥溝のなかなる火の祈祷。盲目の翫賞家。自己禮拜。わたしのぴあのは裂け、時雨はとほり過ぎてしまつたけれど執着の果實はまだまだ青い。
はるかに燃ゆる直覺。欺むかれて沈む鐘。棺が行く。殺された自我がはじめて自我をうむのだ。棺が行く。音もなく行く。水すましの意識がまはる。
黎明のにほひがする。落葉だ。落葉。惱むいちねん。咽びまつはる欲望に、かつて、祕めた緑の印象をやきすてるのだ。人形も考へろ。掌の平安もおよぎ出せ。かくれたる暗がりに泌み滲み、いのちの凧のうなりがする。歡樂は刹那。蛇は無限。しろがねの弦を斷ち、幸福の矢を折挫いてしくしくきゆぴとが現代的に泣いてゐる。それはさて、わたしは憂愁のはてなき逕をたどり急がう。
おづおづとその瞳をみひらくわたしの死んだ騾馬、わたしを乘せた騾馬――記憶。世界を失ふことだ。それが高貴で淫卑なさろめが接吻の場となる。そぷらので。すべてそぷらので。殘忍なる蟋蟀は孕み、蝶は衰弱し、水仙はなぐさめなく、歸らぬ鳩は眩ゆきおもひをのみ殘し。
おお、欠伸するのはせらぴむか。黎明が頬に觸れる。わたしのろくでもない計畫の意匠、その周圍をさ迷ふ美のざんげ。微睡の信仰個條。むかしに離れた黒い蛆蟲。鼻から口から眼から臍から這込むきりすと。藝術の假面。そこで黄金色に偶像が塗りかへられる。
まつてゐるのは誰。そしてわたしを呼びかへすのは。眼瞼のほとりを匍ふ幽靈のもの言はぬ狂亂。鉤をめぐる人魚の唄。色彩のとどめを刺すべく古風な顫律はふかい所にめざめてゐる。靈と肉との表裏ある淡紅色の窓のがらすにあかなきかの疵を發見けた。(重い頭腦の上の水甕をいたはらねばならない)
わたしの騾馬は後方の丘の十字架に繋がれてゐる。そして懶くこの日長を所在なさに糧も惜まず鳴いてゐる。
*1:フランス語で「未来へ」