悪の華
Les Fleurs du mal (1861)
Charles Baudelaire/萩原 學(訳)

憂鬱と理想
SPLEEN ET IDÉAL
60. フランキスカ讃歌
LX
FRANCISCÆ MEÆ LAUDES
その他のヒロイン詩群
全文ラテン語 3行1節 脚韻AAA
ダンテ『神曲』のテルツァ・リーマ?

新しき弦もて我讃えん、
新生の園に戯れ為さん、
余人は入れぬ我が内心。
Novis te cantabo chordis,
O novelletum*1 quod ludis
In solitudine cordis.

花輪奉りて拝むべし、
いとも優婉なる女性
罪は之に償わるべし!
Esto sertis implicata,
O femina delicata
Per quam solvuntur peccata !
慈悲深きレーテー同様、
汝がキスを貪ろう
授かる磁力に引かれよう
Sicut beneficum Lethe,*2
Hauriam oscula de te,
Quæ imbuta es magnete.
悪徳の嵐吹き荒れしとき
なべて道塞がれしとき、
顕れましますは、神々、
Quum vitiorum tempestas
Turbabat omnes semitas,
Apparuisti, Deitas,
救いの星をさながらに
煌々と、難破船が天上に……
吾が心捧げまつる、汝が祭壇に!
Velut stella salutaris*3
In naufragiis amaris……
Suspendam cor tuis aris !
徳に満ちたる池、
永遠の若さの泉へ、
閉ざせる吾が唇に声!
Piscina plena virtutis,
Fons æternæ juventutis,
Labris*4 vocem redde mutis !
汝は穢れし物を焼き、
荒き道を平らかにし、
弱かりし者を強くし。
Quod erat spurcum, cremasti ;
Quod rudius, exæquasti*6 ;
Quod debile, confirmasti.
飢えたる日の吾が宿り、
星なき夜の吾が燈火、
恒に在るべきに導き給い。
In fame mea taberna,
In nocte mea lucerna,*5
Recte me semper guberna.
乗せ給え、強きを力に!
甘美なる風呂に、
心地よき香り!
Adde nunc vires viribus,
Dulce balneum suavibus
Unguentatum odoribus !
柳腰にぞ輝くべし、
さるほどに純潔の帯、
熾天使の洗礼受けし、
Meos circa lumbos mica,
O castitatis lorica,
Aqua tincta seraphica ;
宝石きらめく盃か、
塩味のパン、柔らかいお肉か、
天なる酒か、フランキスカ!
Patera gemmis corusca,
Panis salsus, mollis esca,
Divinum vinum, Francisca !
訳注

フランキスカ(francisca)は元来、フランク族が武器とした戦斧をいう。ナポレオン・ボナパルトのフランス領事館の紋章にも使われた(1799)。
ここでは女性の名。詩人が戦斧を意識したかは定かでない。
結局、Francisca さんは見つからなかったので、フランチェスカ・タンドイ Francesca Tandoi さんのピアノ・トリオをご紹介。ごく最近、Hope というアルバムが澤野工房から出ているのだが、何故かこれも見つからないので別のアルバムを挙げておく。
アッシジのフランチェスコとパオラのフランチェスコを歌うフランツ・リスト 2つの「伝説」(1861 - 1863)が関係するかと思ったが、本作より後になるから、影響を与えたのではなく影響を受けた(かもしれない)方になるようだ。
- *1 novelletum:
- Google翻訳はこれを「小説」と訳した。英訳・仏訳は「雌鹿」に作る。Wiktionary では語源を novellus (“new”) + -ētum (“grove”) とするから、これに従えば、何れでもない。また、語意として
という。前半は「苗床」「果樹園」、nursery-garden は「幼稚園」に当たるから、「新エデンの園」というようにも読める。しかし次行で「自分の心の中の」と付け加えるので、それなら随分と狭い場所のようである。(post-Classical) a place planted with young trees or vines, a nursery-garden
- *2 Lethe:
- 冥府を流れるとされる忘却の川。川の水を呑んだ者は全てを忘れる。ゆえに転生前の魂は、これを呑んで前世の記憶を消去するという。
- *3 stella salutaris:
- 救い主イエスの母マリアは古来、海の星の聖母(Stella Maris)と呼ばれ、船乗りの信仰を集めてきた。 ゆえに「救いの星」とは 北極星であり、聖母マリアである。
- *4 Labris:
- ラテン語「唇」
- イザヤ書6章
- 5 その時わたしは言った、「わざわいなるかな、わたしは滅びるばかりだ。わたしは汚れたくちびるの者で、汚れたくちびるの民の中に住む者であるのに、わたしの目が万軍の主なる王を見たのだから」。
- 6 この時セラピムのひとりが火ばしをもって、祭壇の上から取った燃えている炭を手に携え、わたしのところに飛んできて、
- 7 わたしの口に触れて言った、「見よ、これがあなたのくちびるに触れたので、あなたの悪は除かれ、あなたの罪はゆるされた」。
- *5 lucerna:
- ラテン語「ランプ」
- *6 Quod rudius, exæquasti ;
-
- 詩篇143章
- 9 主よ、わたしをわが敵から助け出してください。わたしは避け所を得るためにあなたのもとにのがれました。
- 10 あなたのみむねを行うことを教えてください。あなたはわが神です。恵みふかい、みたまをもってわたしを平らかな道に導いてください。
- 11 主よ、み名のために、わたしを生かし、あなたの義によって、わたしを悩みから救い出してください。
- 12 また、あなたのいつくしみによって、わが敵を断ち、わがあだをことごとく滅ぼしてください。わたしはあなたのしもべです。



