悪の華
Les Fleurs du mal (1861)
Charles Baudelaire/萩原 學(訳)

憂鬱と理想
SPLEEN ET IDÉAL
64. 秋の小曲
LXIV
SONNET D’AUTOMNE
その他のヒロイン詩群
ソネット形式 脚韻ABBA CDDC EFF GFG
私に語る、あなたの瞳。水晶のように澄んだ、
「あなたに、変な恋人に、私のどこがお気に召したの?」
……お静かに、魅惑的に!何事にも苛立つ我が心、
その素直さだけは例外。古代の動物的なのが、
Ils me disent, tes yeux, clairs comme le cristal :
« Pour toi, bizarre amant, quel est donc mon mérite ? »
— Sois charmante et tais-toi ! Mon cœur, que tout irrite,
Excepté la candeur de l’antique animal,*1
地獄の秘密を見せたくはない、
長い眠りの手が私を誘う子守唄も、
燃える炎が書かれた黒い伝説も。
情熱は嫌い、精神的に痛い!
Ne veut pas te montrer son secret infernal,
Berceuse dont la main aux longs sommeils m’invite,
Ni sa noire légende*2 avec la flamme écrite.
Je hais la passion et l’esprit me fait mal !
優しく愛し合おう。 哨舎の中の愛の神は、
闇の中、待ち伏せて引く、必殺の弓を。
私は知っている、その古い武器庫にある飛び道具を。
Aimons-nous doucement. L’Amour*3 dans sa guérite,*4
Ténébreux, embusqué, bande son arc fatal.
Je connais les engins de son vieil arsenal :
犯罪、恐怖、そして狂気! ……蒼白なるマーガレットよ!
君は私と同じく一つの秋の太陽ではないか、
なぁ、我が白く、我が冷ややかなるマルグリットよ?
Crime, horreur et folie ! — Ô pâle marguerite*5 !
Comme moi n’es-tu pas un soleil automnal,
Ô ma si blanche, ô ma si froide Marguerite*6 ?
訳注
- *1 l’antique animal:
- 知恵の木の実を食らう前のイヴ
- *2 noire légende:
- 最近でいう「黒歴史」に近い感じか
- *3 L’Amour:
- Le Amour の短縮形。amour「愛」は男性名詞なのに、複数形では女性名詞だったりとややこしい。Histoire de mots amour
- *4 guérite:
- 哨舎とは、歩哨が詰める見張り小屋。マルセイユ版タローカード大アルカナ6番「恋人」では、目隠しをした愛の神が弓を引く。
- *5 marguerite:
- 「ヒナギク」と訳されてしまうが、マーガレットの和名は木春菊といい、種別はモクシュンギク属 Argyranthemum モクシュンギク A. frutescens となる。ヒナギク属 Bellis ヒナギク B. perennis とは別種。元来は真珠を指す語、しかし「秋の太陽」に準えた表現は花の形ではあるまいか。
- *6 Marguerite:
- ゲーテ『ファウスト』の恋人マルガレーテ。ファニー・エルスラーはバレエ『ファウスト』のマルガレーテを演じた踊り子として有名と聞いていたので、その画像を探してきた。てっきりグノー『ファウスト』(1858)のバレエ音楽と思い込んでいたのに、このリトグラフは1853年製なので別物。Fanny Elssler u. Herr Carey in dem Ballete "Faust" in der Scene "Die sieben Todsünden.".とあり、"Die sieben Todsünden."とは「七つの大罪」であるところ、該当するバレエ音楽はクルト・ヴァイルの作品以外見当たらない。ベルリオーズ (1803-1869)『ファウストの劫罰』(1846)初演は散々で、作曲家の死後に漸く評価されるに至ったから、それより早く薨去したボードレール(1821-1867)が見た可能性は低い。年代的には、シューマン『ゲーテのファウストからの情景』(1853)がぎりぎり間に合うけれど、ヒロインはグレートヒェン Gretchen とされ、マルガレーテ Margaretta とは呼ばれない。というわけで今のところ、使われた音楽は不明であるものの。詩人が歌ったマルグリットとは、性格俳優的な役をよくした踊り子ファニー・エルスラー踊るところのマルガレーテに相違ない。
Faust ballets
調べ方が足りなかったのか、改めて検索すると Wikipedia にまとめられていた。これに拠ると、ファニー・エルスラーが踊ったのは1848年2月12日、ミラノ・スカラ座バレエ団で初演されたバレエ『ファウスト』。
- Jules Perrot:
- 振付・台本・メフィストーフェレス
- Giacomo Panizza、Michael Andrew Costa、Niccolò Bajetti:
- 音楽
- Fanny Elssler:
- マルグリット
- Effisio Catte:
- ファウスト
- Ekaterina Costantini:
- 悪魔の女王バンボ
解説動画もあった。踊っているのは「カチューシャ」で、残念ながら「ファウスト」ではないが。
1848年版『ファウスト』は、マリウス・プティパによるリバイバル上演もあったそうで、バレエの動画を探したが見つからず、しかしその音楽による変奏曲の演奏はあった。




