サテンつれづれ
Moonshine+さんのところでムーディ・ブルースが取り上げられ、色々と思う事が湧いてしまったので書いてみる。
ムーディー・ブルース『サテンの夜』←という誤訳
「Night In White Satin」(邦題:サテンの夜)」については、ここでは言及のみだが、別ページで紹介されている。
「邦題:サデンの夜」とあったのは誤記だと思うので、修正しておいた。「サデンの夜」という邦題の付く曲があったら面白いかとも思うが… 「サドンデス」でも「サディスティック」でもなく、やや中途半端なので難しいか(悶々)
閑話休題。この邦題は「白」が抜けていて、肝腎なところを取りこぼしている。Satin が何なのか、どうしてサテンなのか、少しでも調べていたら、こんなお座なりな翻訳はできなかったはずだ。
サテンとは
3 May 2011, Tibald. This file is licensed under the Creative Commons Attribution-Share Alike 3.0 Unported license.
サテンとは、繻子織りを意味する。「織り方」だから、素材の糸は絹に限らず、木綿やポリエステルやナイロンなどで織ることができ、筆者が知るのはレーヨンの繻子織りだ。元より光沢のある糸を、光沢があるように織るのだから、それはそれは豪華に煌めく織物になる。
この織物に肖ったピックアップ・カートリッジを売るサテン音響というオーディオ企業が京都にあったが、コンパクト・ディスクに押されて LP レコードが売れなくなると共にカートリッジも売れなくなり、いつしか消えてしまった。今や海外では、レコードが CD より売れるようになったというのに、残念なことである。
レーヨン糸のこと
レーヨンは人絹ともいい、オーガニックに天然素材を使った人造繊維で、絹のような光沢と肌触りを持つ。
今となってはご存知ない方も多かろうとは存ずるが、軽工業に依存した嘗ての日本企業にとっては極めて重要な繊維であった。どのくらい重要かというと、この名を今なお抱え込む社名が複数遺っているくらいだ。
といった具合。そこまでの売り物が廃れた理由は、今ひとつ判然としない。一つには、取り扱いの難しさがある。甚だ水に弱く、うっかり洗濯でもしようものなら、一発でチリチリ縮んでしまう。とはいえ、だから今ではレーヨン100%ではなく木綿等との混紡とする事が多く、そもそも自分で手洗いなどという冒険に出ずクリーニングに出せば済む話なので、これが決定的な缺點とも思えない。材料が紙と同じパルプだから取り合いに負けたという説もあるが、そんなのは商売次第、交渉次第。となると結局、製造費用を下げられなかったのだろう。旺盛な需要があれば、量産でコスト低下を見込めるけれど、それもできなければ値上げするしかなく、するとますます売れなくなる。
それでも絶滅したわけではなく、たまにレーヨンを使った衣料品が出る事もある。まあ材料の違いだけでは、戦力の決定的な差にはならないのだけど、一味違った特色魅力を持つ事実は認めるしかあるまい。店先で見つかったなら、是非お試しあれ。
シルクサテン
大いに話が逸れた。ろくに水洗いできないレーヨンのサテン生地は基本、汚してはいけない。これはシルクのサテンも同様、というか動物性タンパク質なので、もっと厳しく、酸にもアルカリにも侵される。シミを作ったら元に戻すのは絶望的。
結論
話の筋からして、歌われているのは真っ白なシルクサテンの夜会服と見るべきだろう。極めて高価で美しく、しかし汚れを落とせず傷つきやすい、そんな生地の、しかも白い、サテンの盛装を夜会に着ていくのは、何処からでも目立つ代わりに、使い捨てを覚悟しなければならない。見るからに金持ち、上流階級の女ということになる。早い話が、身分違いの存在。
とまあ、ここまで言えば状況がだいたい解ったのではないだろうか。人間の価値は、同じではない。民主主義者、あるいは共産主義者は、こんな普通な事実を嫌って「平等!」と叫びながら、いざ自分の望む権力を手にしたが最後、自分以外の平等を投げ捨ててしまうのが常である。豊かに装える美女は、ペーペーのサラリーマンやら学生やら無職やら売れない歌うたいやらが近づいて良い存在ではないのである。そういった切なさ悔しさ憧れが、「サテンの夜」なんて訳文から全く窺い知れない以上、この邦題はとんだ手抜き、存在してはならない誤訳と言わざるを得ない。もちろん、この誤訳をした翻訳者だけではなく、誤訳を見逃した責任者にも、大いに責任がある。責任者出てこい。
ショスタコーヴィチ第10弦楽四重奏曲
グリンゴルツ四重奏団は演奏に当たり、聴衆に届く音質をよく吟味したようで、至って明瞭な響きが聴き取れる。チェロ以外は立って、革靴を履き、第1ヴァイオリンは当て布ではなく革のマットらしきものを挟んでいることに、特にオーディオファンなら注目されたい。江川三郎氏の実験は知られていないのか、チェロに普通のエンドピンを使っているのは残念でならない。