「オーディオ」グループを見ていたら、インピーダンスについて少し気になる記事があり、自分ならどう書くか?と思ってしまった。しばらく前に専門書で音の本を読み、「音」を「耳に聞こえる振動」と定義しておきながら、「誰も居ない森の奥で木が倒れたら、音は無かったことになるのか?」などと哲学的自問自答したり、なかなか面白かったのだが。引っ越しで本という本を箱詰めして以来、どの本がどこにあるか判らなくなってしまった。その音響学の本も出てこないので、記憶を頼りに書く。
(運動)インピーダンス
インピーダンスとは、運動を妨げる力の総和である。「力」であるから、方向と大きさを持つベクトル量になる。運動インピーダンスの成分による方向の違いを示すと
弾力
⇑
摩擦⇐ →→→→→運動
⇓
質量
オーディオではだいたい運動=音響と思って大過ない。「弾力」と書いたのは、本には「コンプライアンス compliance」とあるのだが、この言葉は今や別の意味を持ちつつあるので避けた。だいたいコンプライアンスといっても、「機械コンプライアンス」「弾性コンプライアンス elastic compliance」があり、確かその名に反して「機械コンプライアンス」の方だったと思うのだが、その本が出てこないので御勘弁を。
さて運動インピーダンスには、3つの力が合成されていることが見て取れるが、このうちブレーキ、つまり抵抗になるのは摩擦のみ。車両のブレーキを思い起こすと、車輪に対して摩擦する、つまり運動に抵抗するよう出来ている。
抵抗により運動エネルギーが熱エネルギーに変換され、その熱が大気中に放散されることにより、車輪の運動エネルギーが(見かけ上)消える。これがブレーキの効く仕組なので、熱を放散できなければ効かなくなる。温暖化がどうのこうの言っているが、止まれなければ事故が起きるだけなので、我々が健康で文化的な生活を続ける限り、温暖化は止まらないであろう。
閑話休題。残りの2つは、抵抗ではなくバネのような、力を蓄える場として機能する。これをリアクタンス reactance という。バネであるから、溜めた力は反発し、溜め込めば何れは吹き飛ぶ。そのリアクタンスとなる質量と弾性は、ご覧の通り逆方向に作用する。弾力がバネだというのは解るとして、質量がバネだというのを呑み込みにくい人には、ターンテーブルを思い浮かべて貰おう。重いプラッターが滑らかに回るのは、大きな慣性モーメントが微細な変動を吸収するからであるが、慣性モーメントの大きさは質量に依存する。
22 May 2009, 15:28 Christian Herzog
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あるいは、ダンプトラックを運転したことのある人なら、積載重量によって、同じダンプカーの挙動が全く違うとご存知であろう。大質量のダンプカーは動きにくく止まりにくい。この「動きにくさ」が「インピーダンス」の一部と思ってもらって差し支えない。
電気インピーダンス
電気インピーダンスも似たようなもので、但し電気に「方向」はなく、「位相 phase」がある。それで「ベクトル」でなく「フェイザー Phasor」というが、考え方は同じだ。phase vector を縮めた言い方なので、一文字だけ皆の考える Phaser とは違う。
上記と同様に位相関係は
容量 C
⇑
抵抗 R ⇐ →→→→→電流
⇓
誘導 L
となる。「コンデンサを通ると位相は90°進む」「コイルを通ると90°遅れる」というのは、この辺の事情を指しており、L と C なら180°ズレることになる。だから2wayでは、ウーファを逆向きに接続して辻褄を合わせたりしたが、「リニアフェイズ」を考えると、さて意味があったかどうか。単一のスピーカ・ユニットでも、周波数によって位相なんざクルクル回るのが普通だ。
コンデンサに静電容量があって電荷を溜め込むのはご存知であろう。コイルも磁場に磁束を溜め込むので、どっちもリアクタンスになる。ただ、C が速く、L が遅いのはどうしようもない。このため、LC ネットワークによるマルチウェイ・スピーカは、ネットワークの入らないフルレンジ・スピーカに比べて、どうしても立ち上がりが鈍くなってしまう。鈍くなると、ライブの空気感がなくなってしまうので、LC ネットワークや密閉箱などに付き合う気にはなれない。
スピーカのインピーダンス
では、スピーカのインピーダンスとは何なのだろう。これは増幅器から見た負荷インピーダンスのことだ。まず、スピーカとして一般的な、ダイナミック・スピーカの構造を見てみよう。

説明に図示されたダイナミック・スピーカの構造は、一種のリニア・モータに、(「コーン紙」という)紙のラッパを貼り付けてある。電気的にはコイルが増幅器の負荷になるわけで、これが諸悪の根源といっていい。ただでさえ応答が鈍い上に、周波数応答が平坦から程遠い。同じ説明に添えられたグラフは、スピーカの音圧及び電気インピーダンスの周波数応答を示すものであるが

インピーダンス特性、すなわち電気インピーダンスの周波数応答は、共振点で力いっぱい盛り上がり、その後落ち込み、それから段々上り詰め、と全然落ち着きがない。酷い山谷に見えるが、一般的なバスレフ箱に納めたスピーカのインピーダンス特性は、どうしてもこのような形になってしまう。それでスピーカの公称インピーダンス値は、インピーダンス特性に於ける(共振点以上での)最低値を採ることになっている。ほら、8Ωくらいになってるだろう?だから、このスピーカ・ユニットの「インピーダンス」は、8Ωだ。実はテスターを当てても、そのくらいだ。お気づきかと思うが、8Ωを超える部分はリアクタンスだ。直流だと C は導通してないし、L は長いだけの銅線。ところが波形が乗ると、C は繋がり、L は蜘蛛の巣と化す。
巻線は難しい
そもそもコイルの構造からして、理想のコイルは作れない。コイル回路・コンデンサ回路の解説を見ると

こんな素敵に単純化された図が出てくるのだけど、簡単に見えて実現不可能だ。合わせて掲載されているコンデンサ回路は

となっている。C の絵の通り、コンデンサとは電極つまり金属が向い合わせになっただけのものだ。こんなもの何処にでもあり、隣の巻線だろうがケースだろうがカバーだろうが電気は差別しないので、そこら中に静電容量が出来てしまう。上のコイル L と比べると、L の中に C がたくさん抱え込まれるのが予想できるだろう。コイルを巻けば巻くほど電線は長くなり、相応に R も増える。だから「純粋なインダクタンス」は実現不可能である。
渦電流
更に厄介なことに、巻線の鉄芯には渦電流と呼ばれる誘導電流が発生し、本来の電流を妨げる方向に働く。
この現象自体は一種の反作用であって、巻線に電流を流して磁界を作るから、作られた磁界の電磁誘導で発電するに過ぎないのだが。
このように鉄芯を積層構造にするなど、渦電流をできるだけ小さくする工夫はされているものの、打ち消すことはできない。ボイスコイルだと鉄芯は無いが、ボイスコイル自体に渦電流が発生するので、使用条件次第で過熱する。風通しの悪い、熱い場所には置かないでほしい。
左手の法則、右手の法則を思い出そう。左手の法則は電動機、右手の法則は発電機の原理になる。
左手の法則は、ボイスコイルを含む電動機が動く原理で、電流を流せば90°ズレた方向に磁界が発生し、また別の90°ズレた方向に動こうとする電磁力が発生する。回転電動機では、これを単一方向に連続して発生させるが、ボイスコイルではそのまま往復運動にする。しかし電動機と発電機は同じものであって、電動機を動かすことにより、逆向きの発電が起きてしまう訳だ。
理科の実験で電磁石を作った人は、使い過ぎると電磁石が熱くなるのにお気づきであろう。渦電流に対抗して電流を流そうとするから、ブレーキをかけた車輪を走らせようとするようなもので、頑張れば頑張るほど過熱してしまうことになる。だからスピーカには耐入力電力が決められていて、そこを超えると飛んでしまう。スピーカを飛ばしてしまうような実験が好きな人は、保護回路を組み込むか、実験用の安いスピーカを確保しておこう。
トランスは唸る
ボイスコイルは動くように作るのだが、動かないように作られたコイルも存在する。というか、その方が圧倒的に多いだろう。しかし、左手の法則を思い出せば、コイルがじっとしている筈はなく、電磁力を食らってガタガタ動こう動こうとしている訳だ。このことを忘れて電源を入れ、「トランスが唸る、壊れたか!」「リレーが歌う、何かの呪い?」などとビビるのは、割と傍ら痛いので勘弁してほしい。と同時に、「アンプに振動対策が必要だなんて、大嘘こくな!」とか知ったかぶるのも、見ていて寒い。今の時代、電気製品を使うことはあっても、自分では作らなくなったのは、大事なことを置き去りにしてしまったように思われてならない。
増幅器から見た負荷
そんな具合に問題しかないようなボイスコイルを動かしながら、結果として50〜20kHzに渡る音圧特性……平坦というにはやや苦しくても、何とか動作している結果を得るのは、並大抵のことではない。これを駆動する増幅器も、色々苦しいものはあるけれど、スピーカほどではない。電気のことは電気だけで片がつくからだ。でも、負荷によって増幅器の動作が変わることは頭に置いてほしい。
電気インピーダンスが周波数によって変化し大変だ、的なことを書いたが、実はインピーダンス値が高くなる分には、そこまで問題ではない。オームの法則を思い出そう。
E = IR
「アイがアルとイー」なんて覚えさせられたと思うが、電圧 E を高くしたいだけなら、電流 I はそのままでも抵抗 R を高くする、なんて方法がとれる。オームの法則は、そのまま交流回路にも適用される。つまり R をインピーダンスに置き換えて構わない。負荷インピーダンス値が高くなれば、所要の電流値は低くなるので、却って楽ができることになる。往年は、伝送ラインのインピーダンスは600Ωにせよと規定されていたくらいだ。こんなのを後生大事に守っているのは、今ではヘッドフォンくらいなものだろう。
ところが逆に、負荷インピーダンス値が下がれば、その分だけ電流を上げないと電圧が維持できない。この方が増幅器にとって苦しい、という事情が、お判り頂けるであろうか。じゃあ何で、21世紀に入った頃から、8Ωでなく6Ωとか、低めのインピーダンスが流行るのか。小型のスピーカしか売れなくなったからであろう。小型化して困るのは低音で、大型と同じように作ったら、高音と比較して全然低音が出なくなってしまう。そこでコーンを重くし、全体的に能率をぐっと下げて、等価的に高低のバランスを取る。能率が下がった分は、増幅器のパワーに任せる。それでも足りない分は、少しだけインピーダンスを下げる。思えば何ともみみっちい、せせこましいやり方だが、大型スピーカが売れなくなったのだから仕方ない、という訳だ。その負担は全部、増幅器に回ってくるのだ。そんな作り方をしているから、低音は暗く重くなり、基音がそんなだから音楽全体が鈍く弾まなくなる。弾まないのを力づくで踊らせようと、ますます増幅器に負担をかける。結果、騒音を撒き散らす。何が温暖化対策だ、つくづく情けない。
スピーカを複数繋ぐときは、たぶん並列に繋ぐから、負荷インピーダンス値は半減する。そのような使い方をする場合には、増幅器の定格を超えていないか、取扱説明書を読んで確認されたい。
最初の目的から遠ざかったというか、えらい回り道してしまった気もするが。スピーカのインピーダンスなんて、その一組だけ増幅器に繋いで使う限りは、そう気にすることはない。後は、どう組み合わせるか、だが、そんなのは各人の好み次第、サイコロ次第。ただ、安全には気をつけて。






