悪の華
Les Fleurs du mal (1861)
Charles Baudelaire/萩原 學(訳)
悪の花々
FLEURS DU MAL

117. 「愛」と「されこうべ」
〜古い尾飾り〜
CXVII
L’AMOUR ET LE CRÂNE*1
VIEUX CUL-DE-LAMPE*2
8音節行と5音節行、脚韻ABAB の四行詩節 × 5 『踊る蛇』と同様の詩形


「愛」の坐す、されこうべ
そは「人類」一般の、
玉座の冒瀆者は浮かべ、
恥知らずな笑みを、
L’Amour est assis sur le crâne
De l’Humanité,
Et sur ce trône le profane,
Au rire effronté,
丸いシャボン玉、陽気に吹くや
宙に浮き上がり、
まるで世界を繋ぐかのような
エーテルの底に。
Souffle gaiement des bulles rondes
Qui montent dans l’air,
Comme pour rejoindre les mondes
Au fond de l’éther*3.
光り輝く球体はしかし脆く、
大いなる飛躍を遂げ、
破裂し吐き出される魂か細く
黄金の夢のようで。
Le globe lumineux et frêle
Prend un grand essor,
Crève et crache son âme grêle
Comme un songe d’or.
泡吹くたび、されこうべの声届く
祈り、うめきが:
……「この熾烈に馬鹿げたゲーム、
いつ終わるのだ?」
J’entends le crâne à chaque bulle
Prier et gémir :
— « Ce jeu féroce et ridicule,
Quand doit-il finir ?
「だって、お前の口が残酷にも
空中に撒き散らすのは、
人殺しの怪物め、わが脳みそ、
わが血肉なのだからな!」
Car ce que ta bouche cruelle
Éparpille en l’air,
Monstre assassin, c’est ma cervelle,
Mon sang et ma chair ! »

ラヴェル:クープランの墓
この組曲は、「クープランの墓詣で」という断り書きが付いてはいるものの、追悼というよりは讃歌に近い気がする。といっても、作曲家はそのようなことを述べてはいないのだが。
訳注
結末の「血肉を撒き散らす」というイメージには、吸血鬼譚の素になったストリゲス(ラテン語「梟」)の影響が見て取れ、これも「吸血鬼」作品の一変種と訳者には感じられるのだが。そんなことを書いている者はないようだ……
*1:元絵はヘンドリック・ホルツィウスによる銅版画 Quis evadet?(誰カ逃レ得ルヤ?)ja.wikipedia.orgartsandculture.google.comwww.wga.hu
*2:文章の章末に提げる逆三角形の挿絵。en.wikipedia.org
同じ言葉で建築では「持ち送り」「梁受け」をいう
ja.wikipedia.org
*3:エーテル宇宙論が仮定した宇宙空間を満たす光の媒質ja.wikipedia.org
