回路修正

前回の回路図に、非現実的な部分があったから修正。これだとボリウムが負の電位に沈むが、現実のボリウムは金属の筐体に接地して使う。アースから浮かしてはいけない。

サトーパーツさんの解説と挿絵で、具体的にどう実装するのか解ると思う。この挿絵には描かれていないが、導通確保のため歯付座金(菊ワッシャ)を入れた方が良い。
歯付き座金は見た目から菊座金とも呼ばれ、伊藤健一氏のアース本で「効く座金」と呼び替えられたほど雑音防止に効くものではあるが。ネジ屋さんの認識ではネジの緩み止めであるから、一般的に鉄かステンレス鋼で造る。
例外的にリン青銅で造るものもあり、オーディオ用にはこちらを推奨。燐青銅はバネの材料となる強靭な銅合金で、導電性は銅の1/2程度、黄銅(真鍮)の2倍程度。3~5%程度の鉛を含むものは砲金と呼ばれる。
そういう訳で、書き直すと

このようになる。格子から見た入力抵抗が並列になる点に留意。なお、ボリュームの接続は一般的な L-PAD 型ではなく、SINO 式と呼ばれる擬似T型で、接点が浮いても格子は接地されている。音質云々より安全性の高さが善い。これとは別に、抵抗数本を加えて定インピーダンス化する接続方法を、確か NEC が提案し、素人工作には制限なく使えるようになっていたと記憶する。のだが、検索して見つからない。
入出力回路の確認
これで音が出るか確認しておこう。
初段カソード・フォロワ(帰還管)

格子から入力、陰極から出力。電源を終段陽極から取り、終段出力波形が加算される。次段で反転し、以降は非反転のため、終段の波形は入力に対して逆相となり、負帰還が掛かる(超三極管接続)。入出力回路は陽極から、終段格子を介してアースされ、アースからパスコン C2 を介して陰極に繋がるので、C2 がないと音が出ない。これを定電圧ダイオードに置き換えられないか検討したところ、却ってバイアス電圧の設定が難しくなるので止めた。
次段カソード接地(電圧増幅)

格子へ入力、陽極から出力。一般的な電圧増幅段として、電源に入っている抵抗を負荷とし、但し本機は段間直結のため出力回路はやや遠回りになる。パスコン C3 及びグランドを介して繋がるので、C3 を接地する終段格子から電圧増幅段陰極へのアース回路は、できるだけ太い電線あるいはブスバーで配線したい。
終段下エミッタ・フォロワ(駆動段あるいはコンプリメンタリ差動回路の接地側)

入力回路はこれで合っているのか、ちょっと自信がない。Tr2 が能動負荷になっていると考えれば

こうなっている、若しくは R3 と Tr2 で T2 出力を分け合うのだろうか。結局は加算されて同じことになる気もするが。Tr2 は PNP 型につきベース電流 Ib を吐き出し、熱電子で動く真空管は N 型に等しいので、Ib は T2 陽極に流れ込む。Ib が十分に大きければ、R3 を介して B 電源に繋ぐ必要はないかもしれない。その場合はこの形で、Tr2 が確実に T2 出力を100% 受け取る。
グリッド接地終段の駆動及びバイアス電圧確保にコンプリメンタリ素子を用いるのは、上條信一氏の発想。これによりバイアス電圧を無駄にせず、かつ電流制限のない差動回路となり、出力と動的歪の向上が期待できる。

この回路が実用化されたのは、今回が初めてだろう。検索しても、同様の回路は何処にも見当たらない。
終段グリッド接地(電力増幅段、あるいはコンプリメンタリ差動回路の出力側)

遂に、というか漸く、というか、終段である。グリッド接地は陰極に入力、陽極から出力。パスコン C3 がないと出力回路が繋がらず、音は出ない。C3 に添えた回生ダイオードは、切断時に導通して C3 を保護すると共に、逆起電圧を吸収してスピーカを制動する。見ての通り格子が接地され、シールドとして機能するので、高周波も扱える。そのため無線ではグリッド接地が一般的。オーディオ用では珍しいけれど、皆無でもない。
https://www2u.biglobe.ne.jp/~hu_amp/cv18ggn.htm
バイアス電圧を確保するため、カソード抵抗を大きくするかカソードチョークを入れる必要があったが、今回の回路では電流を浪費せず、エミッタ・フォロワ駆動に充てており、出力向上に寄与する。発熱が無くなった訳では無いが。

上條さんが「コンプリメンタリ差動回路」と称するのは、直列接続された真空管と半導体が相補的に動作するからで、直列だから電流は相等しく、素子は + 型と - 型が相反して動作する。結果として、歪雑音を潰し合い、その分が出力あるいは発熱に加算される。差動対のような電流制限がないので、伸び伸びとした音が期待できる。反面、暴走を止める機序がないので、保護回路を設ける必要があり、その一つが R5 で表したガバナ抵抗となる。
以上、各段の入出力回路が全て閉じているので、これなら音が出るであろう。留意すべき点として、グリッド接地は非反転出力である。カソード・フォロワもエミッタ・フォロワも非反転出力、カソード接地のみ反転出力であるから、本機は位相に於ては、単段の反転増幅器と同等、おそらく出力トランス二次側は反転接続すべきであろう。これはしかし、出力トランスの設計にも依るから、仕様を確認されたい。
単電源化・簡略化
などとチマチマ書いていたら、先を越されてしまった。
friendsofvalves.hatenablog.com
ので、もう少し実用化した回路を考えよう。C 電源を設けないなら、初段と次段はカソード・バイアスとなる。終段の嵩上げを要するかもしれない。そこで RC の代わりに定電圧ダイオードを使えば簡単確実。
但し電圧増幅段の電源は、PNP エミッタ・フォロワのベース電流で足るものとする。悩ましいのは初段の負荷で、同時に次段の入力インピーダンスともなるから、どちらにも最適化できない。固定抵抗器より能動負荷あるいはカソード・チョークが適しているだろうけれど、巻線は諸悪の根源であるし、ここではそこまで求めていない。
以上、参考になれば幸甚。
