モーツァルト第33交響曲聴き比べ
クリストファー・ホグウッド指揮するエンシェント室内管弦楽団こと古楽学会(創立1973年)は、ジョルディ・サヴァール率いるエスペリオンXX(創立1974年、21世紀に入ってからはエスペリオンXXI)と共に、最も早くから古楽器演奏を追求してきた楽団の双璧と言えよう。
その演奏をrochadeさんが『音楽枕草紙』で紹介遊ばすに際し、ブルーノ・ワルターの演奏はご存知ないと。あれ、と思って探してみると、確かにワルターさんの33番はない。何か事情でもあったのだろうか?というか、どんな曲だか覚えていないではないか?というわけで、聴き直すことにする。
在来派
カール・ベーム指揮ウィーン交響楽団
一時代を画したベームさんの指揮が、映像つきで遺っていたので紹介。指揮棒が下を向くベームさんの不思議な身振りが面白い。レコードの音より聴きやすいかも。残念ながら途中で切れ、続きは見つからない。
ヘルマン・アーベントロート指揮ライプツィヒ交響楽団
アーベントロートは、フルトヴェングラーやクナッパーツブッシュと同世代であるが、ドイツが東西に分かれた戦後もライプツィヒに留まったので、東側の指揮者ということになり、ご存知ない方も多いであろう。ステレオ録音が広まる前に世を去ったので、モノーラル録音しか遺っていないのは承知されたい。当然、時代的に古楽器演奏などは端から考えておらず、言わば旧いスタイルそのものだ。が、踊るようにスイスイ進む、颯爽たる演奏を聴くと、そんなことはどうでもよくなってしまう。歌わせる所はしっかり歌わせるためか、演奏時間は19分24秒と、短くはならない。
エーリヒ・ラインスドルフ指揮ロンドン交響楽団
ウィーン出身アメリカの指揮者ラインスドルフは、ユダヤ人ゆえオーストリアからアメリカ合衆国に渡り、後に帰化した。メトロポリタン歌劇場の主となり、ボストン交響楽団を鍛えた事もある。とはいえ、似たような経過を辿ったブルーノ・ワルターさん辺りとは、毛色が違うのは一聴歴然。よく周りと喧嘩したそうで、芸歴が長い割に人気がなく録音が少ないのは残念。
ヨーゼフ・クリップス指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
クリップス指揮するアムステルダム・コンセルトヘボウの演奏は端整な、一般にイメージされるモーツァルト像に近いかも。割と聴きやすい録音もあって、幾分ゆったりした速度で、少しふっくらした優雅な響き。
ヴァーツラフ・ターリヒ指揮チェコ・フィル
自分で買ったターリヒ指揮チェコ・フィルのレコードは、大学生協で買ったスメタナ『わが祖国』一枚きりで、もっと色々買っておくのだったと後悔しきり。まあ、こうして聴けるだけでも幸甚ではある。演奏時間18分35秒、第3楽章メヌエットと第4楽章アレグロ・アッサイの対比が見事。
チャールズ・マッケラス指揮プラハ室内管弦楽団
第1楽章と第4楽章は Allegro Assai と指定され、この「アッサイ」が曲者らしく、どうやら「相当」に相当するらしい。それでフランス語とイタリア語で意味が違い、イタリア語で「かなり」「非常に」というのに対して、フランス語では「あっさり」「そこそこ」の意味になるのだとか。「相当速く」と「速さは相当に」と言うのとでは、使っている言葉は大差ないのに雰囲気は違うから、こういう多義的な言葉を指定に使うのが間違いの素ではあるけれども、そこは演奏側の解釈に委ねる意図が無かったとも言い切れず、何が言いたいかというと、コレはこれでいいんじゃね?という。
チャールズ・マッケラス卿の「アッサイ」は「あっさり」なようで、冒頭からじわっと進む……いや、クリップスより遅いくらいか?異色の演奏になっている。作曲家自身はプレストくらいの速さを想定したらしいから、その意志を尊重するなら「違うんじゃね?」となるわけだが、上記の通り間違いでもない。テラーク録音なので、元はもっと音も良い筈、その点はやや残念な感じに聞こえる。
ステファノ・モンタナーリ指揮フェニーチェ座付管弦楽団
ヴェネツィア随一のオペラハウス不死鳥座の管弦楽団は、如何にも手慣れた様子の演奏。思ったより会場が狭い気もするけれど、音はクリアで、これで良いのだろう。
パウル・ライト指揮フレマントル室内管弦楽団
2025年6月8日日曜日、オーストラリア西メノラー、PHCユダヤ教会堂にて。取り立てて特徴のある演奏ではないが、ホールの響きは美しく収録されている。
マルク・ミンコフスキ指揮ベルリン・フィル内カラヤン学会
2018年3月9日、ベルリン・フィルハーモニー室内楽ホールにて。この楽団も指揮者も存在を知らなかったが、動画の映りも美しく、中々良い演奏だと思う。
古楽器派
トレヴァー・ピノック指揮イングリッシュ・コンソート
調べると、博物館所蔵の古楽器を活用するため、トレヴァー・ピノックがイングリッシュ・コンソートを設立したのは1973年というから、実は誰よりも早い。なのに、そういうイメージは全く無く、「ピノックのバックオーケストラ」くらいにしか思ってなかった。いや、申し訳ない…… ただ、改めて演奏を聴くと、古楽器に依存している感じでもない。鍵盤奏者ゆえか指揮を務めたからといって演奏を辞めるでもなく、今世紀に入って間もなく、彼は楽団を去った。
ジョン・エリオット・ガーディナー指揮イギリスバロック奏者団
ガーディナーが1974年にモンテヴェルディ管弦楽団を改組して設立した English Baroque Soloists*1 は、古楽学会より1年遅れで発足したことになり、ただ活動を知られるようになったのは80年代だったと思う。もう80を超えるのに、近年オペラの演出を間違えた歌手をぶん殴ってモンテヴェルディ管弦楽団&合唱団を解任されたとか、老いてなお血気盛んというか何と言うか……
フランス・ブリュッヘン指揮18世紀管弦楽団
フルート吹きだったフランス・ブリュッヘンが18世紀オーケストラを組織したのは1981年、ホグウッドたちより少し後になる。彼は結局、笛を置いて指揮者に転向し、その楽器は有田正広の手に渡ったという。2014年8月13日永眠。享年71歳、合掌🙏
当のホグウッド指揮古楽学会の演奏も載せたかったのだけど、今のところ全曲は You Tube に見つからない。まあ、最初に聞いたときは衝撃だったけれど、古楽器を使ったからといってモーツァルトの本質が変わる訳でもなし。一種の演奏スタイルとして受け容れられたように思う。古楽器の音量からして、演奏はキビキビと速くならざるを得ないとか、初期に聞いた気もするが。アーベントロートの指揮で聴くと、楽器の性能差が演奏の決定的な違いにはならないことを教えてくれているような気もするのだ。


