POETIC LABORATORY ★☆★魔術幻燈☆★☆

詩と翻訳、音楽、その他諸々

【翻訳】ボードレール『悪の華』読者諸君、

2版3版とも番号なし

押韻ABBA

平岡公彦氏の仕事に感謝

kimihikohiraoka.hatenablog.com


読者諸君、
AU LECTEUR

シャルル・ボードレール Charles Baudelaire/萩原 學(訳)

愚劣、過ち、罪、浪費
我等が心を占め、体を動かし、
我等はぐくめるは優しい後悔、
さながら害虫に餌やる乞食。

La sottise, l’erreur, le péché, la lésine
Occupent nos esprits et travaillent nos corps,
Et nous alimentons nos aimables remords,
Comme les mendiants nourrissent leur vermine.

犯せる罪のかたくななこと、悔い改めの軽いこと。
我等懺悔ざんげに大金を積み
我等喜び戻るは泥濘ぬかるみ
卑劣な涙にけがれなど、すべて洗い流せようと。

Nos péchés sont têtus, nos repentirs sont lâches ;
Nous nous faisons payer grassement nos aveux,
Et nous rentrons gaîment dans le chemin bourbeux,
Croyant par de vils pleurs laver toutes nos taches.

悪の枕に悪魔の王トリスメギストス
あくまでも安らかに我等が魂揺するか
意志という名の計り知れぬはがねですら
この有識者な化学者の手で全て蒸発。

Sur l’oreiller du mal c’est Satan Trismégiste*1
Qui berce longuement notre esprit enchanté,
Et le riche métal de notre volonté
Est tout vaporisé par ce savant chimiste.

我等を動かす糸を手繰たぐるは悪魔!
我等かれる、反発するものにこそ
地獄に向かう、日々新たなる一歩を
悪臭こもる闇の中、恐れもないまま。

C’est le Diable qui tient les fils qui nous remuent !
Aux objets répugnants nous trouvons des appas ;
Chaque jour vers l’Enfer nous descendons d’un pas,
Sans horreur, à travers des ténèbres qui puent.

貧しく淫らな女たちが、男とヤッてやっと食うように
して、古の大淫婦に捧げられた殉教の乳房からして、
通りすがる我等は、密かな快楽をただ盗もうとして
かたく搾り取る、涸れたオレンジのように。

Ainsi qu’un débauché pauvre qui baise et mange
Le sein martyrisé d’une antique catin,
Nous volons au passage un plaisir clandestin
Que nous pressons bien fort comme une vieille orange.

我等が不健康な脳内には、百万匹の蠕虫のように
悪魔の民が這い回り、歌い、打ち上げる
息をすれば肺に死を吹き込む
声なき慟哭が押し寄せてくる、濁流のように。

Dans nos cerveaux malsains, comme un million d’helminthes,
Grouille, chante et ripaille un peuple de Démons,
Et, quand nous respirons, la Mort dans nos poumons
S’engouffre, comme un fleuve, avec de sourdes plaintes.

もしも強姦、汚毒、刺刀さすが、火事
愉快な意匠の刺繍がまだ施されていないなら、
我等が哀れな運命の月並みな画布には、
それは哀しいかな我等が魂、大胆を欠き。

Si le viol, le poison, le poignard, l’incendie
N’ont pas encor brodé de leurs plaisants dessins
Le canevas banal de nos piteux destins,
C’est que notre âme, hélas ! n’est pas assez hardie.

しかしジャッカルやヒョウ、山犬、他にも
サル、サソリ、ハゲワシ、大蛇が、
叫び、吠え、唸り、這う怪物が、
悪徳の栄えと名高い檻の中にも

Mais parmi les chacals, les panthères, les lyces,
Les singes, les scorpions, les vautours, les serpents,
Les monstres glapissants, hurlants, grognants, rampants,
Dans la ménagerie infâme de nos vices

もっと醜く、もっと卑劣で、もっと汚い奴が居るぞ!
身振り手振りも叫びもないのに、
喜んで地球をそっくり瓦礫と化し
あくび一つで、この世界を飲み込んでしまう事だろう。

Il en est un plus laid, plus méchant, plus immonde !
Quoiqu’il ne fasse ni grands gestes ni grands cris,
Il ferait volontiers de la terre un débris
Et dans un bâillement avalerait le monde ;

それこそ「倦怠アンニュイ」! …目には涙を浮かべつつも、
水煙草を燻らしつつ、断頭台の夢を見る。
読者諸君、この繊細なる怪物をご存知の筈、
…偽善の読者よ、…我が同胞よ、…我が兄弟よ!

C’est l’Ennui ! — l’œil chargé d’un pleur involontaire,
Il rêve d’échafauds en fumant son houka.
Tu le connais, lecteur, ce monstre délicat,
— Hypocrite lecteur, — mon semblable, — mon frère !

【翻訳】ボードレール『悪の華』表紙

悪の華
LES FLEURS DU MAL

シャルル・ボードレール Charles Baudelaire /萩原 學 (訳)

 

人の言う、忌まわしきもの沈めざるべからずと。
忘却の井戸に、はたまた囲われし墓にと。
書かれし言葉に悪も復活しようと、
後々、道徳心を汚すこととなろうと。
されど知識は悪の母ならず、
美徳は無知の娘ならず。
(テオドール・アグリッパ・ドービニエ『悲愴曲』第2巻)

On dit qu’il faut couler les execrables choses 
Dans le puits de l’oubli et au sepulchre encloses, 
Et que par les escrits le mal resuscité 
Infectera les mœurs de la postérité ; 
Mais le vice n’a point pour mère la science, 
Et la vertu n’est pas fille de l’ignorance.
(Théodore Agrippa d’Aubigné, Les Tragiques, liv. II.)*1

申し分なき詩人にして
完璧なるフランス文学の魔術師
こよなく我が親愛と敬愛を寄す
我が師にして友
テオフィル・ゴーティエ
最も深き謙譲の
気持ちもて
捧げまつるは
之なる病める花々を

AU POËTE IMPECCABLE
AU PARFAIT MAGICIEN ÈS LETTRES FRANÇAISES
À MON TRÈS-CHER ET TRÈS-VÉNÉRÉ
MAÎTRE ET AMI
THÉOPHILE GAUTIER
AVEC LES SENTIMENTS
DE LA PLUS PROFONDE HUMILITÉ
JE DÉDIE
CES FLEURS MALADIVES

C. B.


自分でも翻訳してみる気になったので。挿画は Wikimedia からジョルジュ・ロシュグロス

Georges-Antoine Rochegrosse がフェロー A. Ferroud 版に描いたものを採用

ja.m.wikipedia.org

*1:初版にあったこの引用句は、以後は削除された

【復刊希望】山村暮鳥『聖三稜玻璃』いのり

 

セント三稜玻璃プリズム
山村暮鳥 著

 

いのり

つりばりぞそらよりたれつ
まぼろしのこがねのうをら
さみしさに
さみしさに
そのはりをのみ。

終。

【復刊希望】山村暮鳥『聖三稜玻璃』冬

 

セント三稜玻璃プリズム
山村暮鳥 著

 

ふところに電流を仕掛け
眞珠頸飾りのいりゆじよんillusion
ひかりまばゆし
ぬつとつき出せ
餓ゑた水晶のその手を……
おお酒杯
何といふ間抜けな雪だ
何と……凝視みつむるゆびさきの噴水。

【復刊希望】山村暮鳥『聖三稜玻璃』誘惑

 

セント三稜玻璃プリズム
山村暮鳥 著

 

誘 惑

ほのかなる月の觸手
薔薇の陰影かげじふてりあdiphtheria
みなそこでなくした瞳
それらが壺にみちあふれる。
榲桲マルメロのふくらみ
空間のたるみ
そして愛の重み
蟲めがねの中なる悲哀。

【復刊希望】山村暮鳥『聖三稜玻璃』風景

 

セント三稜玻璃プリズム
山村暮鳥 著

 

風 景

純銀もざいく

いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
かすかなるむぎぶえ
いちめんのなのはな

いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
ひばりのおしやべり
いちめんのなのはな

いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
やめるはひるのつき
いちめんのなのはな。

【復刊希望】山村暮鳥『聖三稜玻璃』午後

 

セント三稜玻璃プリズム
山村暮鳥 著

 
午 後

さめかけたきいろい花かんざしを
それでもだいじさうに
髮に插してゐるのは土藏の屋根の
無名草
ところどころの腐つた晩春……
壁ぎはに轉がる古いからつぽの甕
一つは大きく他は小さい
そしてなにか祕密におそろしいことを計畫たくらんでゐる
その影のさみしい壁の上
どんよりした午後のひかりで膝まで浸し
瞳の中では微風の纖毛の動搖。