[POETIC LABORATORY] ★☆★魔術幻燈☆★☆

詩と翻訳、音楽、その他諸々

【ハロウィン】神の如きハシバミの実

poetlabo.hatenablog.jp

ロバート・バーンズ『ハロウィン』については、おそらく本邦初訳となる対訳を公表したところだが。翻訳に際してさまざまなwebサイトを参考にさせて頂いた。そのうちの一つ、Soogle Webマガジンの解説で「ナッツ」の訳語に意見したところ、詳しい答えが返され、ヘーゼルナッツについて再考することとなった。

これらの資料を踏まえると、バーンズの詩に登場する木の実もヘーゼルナッツだった可能性は十分に考えられます。

ok-soogle.com

訳者は単に、 nits(nuts) の訳語に「ナッツ」は不適かと思っただけ。だが、これをきっかけに調査され、記事が増補されていた。どうやら恋占いの nuts とは、ヘーゼルナッツのことらしい。榛(はしばみ)の実、正確にはセイヨウハシバミの実である。

ja.wikipedia.org

ja.wikipedia.org

その実のみならず、樹木そのものに聖性が認められ、魔術的な利用をされてきたとは全く知らなかった。正直てんで関心がなかった、とも言う。

natuvegegarden.primelifenet.com natuvegegarden.primelifenet.com

ヘーゼルナッツ。hazelnuts.

そもそも榛(はしばみ)の実は、どんぐりだと思っていた。どんぐりに見えるからである。ところが榛という木は

ハシバミ属(ハシバミぞく、榛属、学名:Corylus、英語: Hazel)は、ブナ目カバノキ科に分類される被子植物の1属。

ja.wikipedia.org

であり、セイヨウハシバミの実であるヘーゼルナッツは

外見はドングリに酷似しているがブナ科ではなくカバノキ科であり、種類は全く異なる

ja.wikipedia.org

とのことで、どんぐりではないそうだ。

2004年11月14日より前、Fir0002
GNU FDL 1.2

そうか。どんぐりではないのか…… 別にがっかりするようなことでもないが、背景色は榛色とした。

ヘーゼルナッツについて、紹介された Webページには、次のような一節がある。著作権に配慮して、原文の転載は控える。

Calltainn(カルティン)、Call(コール)、Coll(コル)はセイヨウハシバミ hazel を意味する。榛(はしばみ)の実 Hazelnuts(ヘーゼルナッツ) は数千年に渡り、スコットランドの環境に於て重要な食料資源となってきた。

樹木及びその一部は、サウインのような祝祭に関連するものから、牛の乳搾りといった日常的な営みに至るまで、さまざまな儀式で用いられていた。占いに使われることもあり、「ハロウィーンのヘーゼルナッツ」を意味する cnò(クノ) Shamhna(サムナ) と呼ばれるものでは、一対の実を用いて、男の子女の子が伴侶にふさわしいか、将来性を占った。鏡の前でリンゴを使い、将来の恋人が誰になるかを占うこともあった。

Ecosystem Services and Gaelic: a Scoping Exercise
2021, Roddy Maclean (Ruairidh MacIlleathain)

www.nature.scot

こんなブログも見つけた。紹介されている本も興味深いが、どれも未訳のようだ。

Hazel Trees in Folklore: Protection, Divination and Magic

ハシバミの木は、オーク、トネリコ、イチイと並んで「四大樹木」の一つに数えられます(Mac Coitir 2003)。聖地の守護者とも目印ともされています。

ニコラス・カルペパーは榛をメルクリウスの植物に分類し、対してウィリアム・リリーはこれをジュピターに帰しました。クリスティーナ・オークリー・ハリントンによれば、メルクリウスの持つ杖(カドゥケウス)は榛の木材で作られており、キルケーの杖も同様であったといいます(Harrington 2020: 65)。榛とメルクリウスの関連は、知性と伝達の神としてのメルクリウスの役割を考えれば、頷けるものがあります。

www.icysedgwick.com

榛の実に「知性がある」とは信じ難い話で、何か理由はあるはずだ。検索すると、「花と物語のあいだ」というブログに「【ケルト神話】ルーとハシバミの木 – 知恵の泉と光の神」という記事があった。

古代ケルトの人々は語りました——世界が始まった時、九本の聖なるハシバミの木が、知恵の泉のほとりに植えられたと。その実を食べた者は、詩人となり、預言者となり、世界のすべてを理解するだろうと。

syokubutsu-zukan.com

出典を示していないので、確かめようがない。その点は上記 Icy Sedgwick さんのブログから辿ることにして、Dindshenchas の伝える「コンラの泉」に行き着いた。英語で well とあるから普通は「井戸」、でもどう見ても人工物ではなく、well を「泉」と訳すこともあるので、ここでは「泉」で通す。作者不明、アイルランド語で書かれ、それも古語らしく、翻訳機も Google翻訳以外はろくに動かず難儀した。結局、編者による英訳版があったから、概ねこれに頼った。文中の「シナン」とは、アイルランド最長を誇るシャノン川のことである。

The Metrical Dindshenchas (Author: Unknown)poem 54

Sinann II

シナン、その名がどこから来たのか、
偽りなく語ることにしよう。
その名とその由来とを、私は
疑問の余地なく説き明かそう。

Sinann, cá hadbar diatá,
inneósad cen immargá:
atbér cen snaidm co solus
a hainm is a bunadus.

Sinann — the reason why it is so named,
I will declare without deception:
I will report clearly without perplexity
its name and its origin.

いざ万人に告げよう、
清流シナンの源泉を。
包み隠さず、その高貴な源を、
その名の謂れを説き明かそう。

Innisfed do chách uile
bunad Sinna srib-glaine:
ní chél in dag-blad diatá:
atbér adbar a hanma.

I will declare to each and all
the origin of bright-streaming Sinann:
I will not hide the source of its renown,
I will report the reason of its name.

その名高くも「コンラの泉」、
青く縁取られた深淵の底。
名高い川が6筋流れ出ており、
7筋目がシナンである。

Tipra Chonnlai, ba mór muirn,
bói fon aibeis eochar-guirm:
sé srotha, nárb inann blad,
eisti, Sinann in sechtmad.

Connla's well, loud was its sound,
was beneath the blue-skirted ocean:
six streams, unequal in fame,
rise from it, the seventh was Sinann.

賢者クリマルのハシバミ9本、
その泉の底へ実がぽっとん。
佇むは呪縛の魔術に囚われて、
仄暗いドルイドの霧に包まれて。

Nói cuill Chrimaill, ind fhir glic,
dochuiret tall fon tiprait:
atát le doilbi smachta
fo cheó doirchi dráidechta.

The nine hazels of Crimall the sage
drop their fruits yonder under the well:
they stand by the power of magic spells
under a darksome mist of wizardry.

しかも生い立つも唯ならじ、
芽吹く葉と花、並び立ち
たちまち実と成り果(おお)せようとは、
不思議千万、いとも気高き徳なりや。

I n-óen-fhecht, amail nách gnáth,
fhásas a nduille 's a mbláth:
ingnad ciarsad sóer-búaid sin
's a mbeith i n-óen-úair abaig.

Together grow, in unwonted fashion,
their leaves and their flowers: —
a wonder is this, though a noble quality,
and a wonder their ripening all in a moment.

木の実が熟し
泉に落ちる、
底に散らばり、
鮭が摂る。

In úair is abaig in cnúas
tuitit 'sin tiprait anúas:
thís immarlethat ar lár,
co nosethat na bratán.

When the cluster of nuts is ripe
they fall down into the well:
they scatter below on the bottom,
and the salmon eat them.

溢れる果汁一方(ひとかた)ならず、
閃きを生む泡を生み出す。
とめどなく次々と泡立って、
緑の川面(かわも)を流れ下って。

Do shúg na cnó, ní dáil diss,
dogníat na bolca immaiss;
tecait anall cach úaire
dar na srothaib srib-úaine.

From the juice of the nuts (no paltry matter)
are formed the mystic bubbles;
thence come momently the bubbles
down the green-flowing streams.

嘗て黄金の髪の乙女あり、
トゥアハ・デ・ダナーンの地より来(きた)りし。
優美なるシナン、その姿は輝きに満ち、
光り輝くローダンの娘なり。

Bói ingen, ba buide barr,
thall a túathaib dé Danann,
Sinann gasta co ngné glain
ingen Lodain luchair-glain.

There was a maiden yellow-haired
yonder, sprung of the Tuatha De Danann,
the sprightly Sinann, bright of face,
daughter of Lodan Luchair-glan.

ある夜、乙女はふと考えた。
甘やかな声と紅い唇を持つその乙女は、
どんな名声も自分の思うがままだ、
ただ一つ、神秘の術だけは例外だ。

Smuainis ind ingen adaig,
in bind bél-derg banamail,
co mbói da hindus cach mblad,
acht in t-immus a óenar.

One night the maiden bethought her, —
the sweet-voiced red-lipped maiden —
that every sort of fame was at her command
save the mystic art alone.

乙女は、その姿形も麗しく、
ある日、川辺にやって来て、
それはそれは一方(ひとかた)ならぬ、
麗しき閃きの泡を見つ。

Lá da tánic cosin sruth
ind ingen, ba cóem a cruth,
co facca, nochor dál diss,
na bolca áilli immaiss.

The maiden, — fair was her form, —
came on a day to the river
and saw — it was no paltry matter —
the lovely mystic bubbles.

乙女は、自尊心からついて行こうと
足踏み入れた、緑の川へと。
途中で溺れて命を落とした。
シナンは彼女に因んで號(なづ)けられた。

Téit ind ingen, toisc úaille,
'na ndiaid 'sin sruth srib-úaine:
báiter hí da toisc aall;
conid úaidi atá Sinann. S.

The maiden goes on a lamentable venture
after them into the green-flowing river:
she is drowned yonder through her venture;
so from her is Sinann named.

celt.ucc.ie アイルランド語

celt.ucc.ie 英訳版

「賢者クリマル」がよく解らないが。シャノン川以下6本の川の源泉コンラの泉、そのほとりに賢者が植えたハシバミが実を落とし、泉に住む鮭がその実を喰らう。その鮭を食した者は、賢者の知恵を引き継ぐと、こういう話なようだ。神々の長オーディンが知恵を得たミーミルの泉は世界樹の根元だったから、何らかの関係か影響はあるのだろう。これでどうやら納得し、さて「コンラの泉」「コンラの井戸」で検索してみると、あった。しかし「コンラの井戸」と書いてあった。うーむ……

note.com

詩人の端くれである自分は、そんな事ちっとも知らなかったし、ハシバミの実がなくても詩を書くのに不自由はなかったけれど。より良い詩を書こうと努力こそすれ、詩人になろうなどとは思わなかったけれど。そういうことなら、ここは一つ、ヘーゼルナッツを探してみよう。供給者も、これを宣伝文句に使ってみてはどうだろう。

  • 知恵の実
  • 発想の源
  • コンラの泉の木の実
  • 恋占いの実
  • 世界の始まり

連絡も報酬も求めないし、でも損失を生んでも関知しないが。

【対訳】ルース・エドナ・ケリー『ハロウィンの本』The Book of Hallowe'en.

ロバート・バーンズ『ハロウィン』(1785)が思ってたのと違ったので、ハロウィンについて初のまとまった解説書 The Book of Hallowe'en(1919) を翻訳してみる。2026年現在から100年余り前、バーンズのバラッドから130年少々後れて出たこの本は、Wikisource で公開され、Internet Archive でも影印の PDF が入手できるが、Google books には無い。

en.wikisource.org

archive.org

ハロウィンの本

The
Book of Hallowe'en

By

RUTH EDNA KELLEY, A. M.

Lynn Public Library

ILLUSTRATED

BOSTON
LOTHROP, LEE & SHEPARD CO.

Published, August, 1919

Copyright, 1919,
By Lothrop, Lee & Shepard Co.


All Rights Reserved


The Book of Hallowe'en


この本を書くに当たり
発想源となり励ましとなった
わが母、わが父の思い出へ

To my Mother and the memory of my Father
who inspired and encouraged me
in the writing of this book


前書
PREFACE

 この本は、ハロウィンについて、その起こりと歴史、それがどのように他の年中行事、メーデーや夏至などを吸収していったかの説明を、読者に与えようとするものである。その文脈は、ハロウィンに関する古今の韻文散文に彩られている。

  This book is intended to give the reader an account of the origin and history of Hallowe'en, how it absorbed some customs belonging to other days in the year,—such as May Day, Midsummer, and Christmas. The context is illustrated by selections from ancient and modern poetry and prose, related to Hallowe'en ideas.

 読書、朗読、演劇、パーティーの演し物に関する見識を得たい方は、付録に掲載した一覧を活用されたい。また、公共の図書館には、娯楽やゲームに関する本も数多く揃っている。

  Those who wish suggestions for readings,recitations, plays, and parties, will find the lists in the appendix useful, in addition to the books on entertainments and games to be found in any public library.

 W. M. レッツ『オックスフォードの尖塔とその他の詩』所収の詩「ハロウィーン」の使用許可をいただいたE. P. ボタン・アンド・カンパニー社、ウィリアム・モリス著の詩「ポモナ」を提供してくださったロングマンズ・グリーン・アンド・カンパニー社、ならびに5編の詩の使用を許可してくださった『インディペンデント』紙の編集部には、格別の感謝を。

  Special acknowledgment is made to Messrs. E. P. Button & Company for permission to use the poem entitled "Hallowe'en" from ''The Spires of Oxford and Other Poems," by W. M. Letts ; to Messrs. Longmans, Green &Company for the poem "Pomona," by William Morris ; and to the Editors of The Independent for the use of five poems.

RUTH EDNA KELLEY.

Lynn, 1919.


The Book of Hallowe'en

第1章
太陽崇拝。
ハロウィンの素

CHAPTER I
SUN-WOESHIP. THE SOUECES OF
HALLOWE'EN


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 もし、旧世界に於ける異教徒の一人に、最も崇める神は誰かと尋ねたなら、その中には必ずや、太陽神の名が挙がるだろう。ギリシャ人ならアポロ、エジプト人ならホルスやオシリス、ノルウェー人ならソル、ペルー人ならボチカといった具合に。太陽は物理的な宇宙の中心であるのと同様に、すべての原始民族は太陽を、自分たちの宗教の軸とし、ほとんどの場合、祈りを捧げ生贄を捧げるべき生きた存在、則ち自分たちの生活や運命を導く者であり、さらには湖や海から水を汲み上げるように、人間をこの世の生活から引き離して、しばらくの間、自らのもとへ連れ去ることもできるものと信じられた。

  If we could ask one of the old-world pagans whom he revered as his greatest gods, he would be sure to name among them the sun-god ; calling him Apollo if he were a Greek ; if an Egyptian, Horus or Osiris ; if of Norway, Sol ; if of Peru, Bochica. As the sun is the center of the physical universe, so all primitive peoples made it the hub about which their religion revolved, nearly always believing it a living person to whom they could say prayers and offer sacrifices, who directed their lives and destinies, and could even snatch men from earthly existence to dwell for a time with him, as it draws the water from lakes and seas.

 彼らはこうした信念に基づき、古代の人々すべてが持つ本能、すなわち、伸びゆく生き物、山紫水明、太陽、月、星々といった自然界の偉大な力を、人として扱いたいという欲求に従った。そして、自分たちが作り出したこれらの神々が、自分たちの日常生活に関心を寄せ、その一部となってくれることを願ったのである。次の段階は、目撃された現象を説明するために、それらに関する物語を作り出すことであった。こうして、神話や伝説が生まれた。

 In believing this they followed an instinct of all early peoples, a desire to make persons of the great powers of nature, such as the world of growing things, mountains and water, the sun, moon, and stars ; and a wish for these gods they had made to take an interest in and be part of their daily life. The next step was making stories about them to account for what was seen ; so arose myths and legends.

春斎年昌:岩戸神楽之起顕(1889)

 太陽は、古来より労働の時間と休息とを区切り、一年を冬の農閑期、種まきの時期、成長期、そして収穫期へと分かち続けてきた。大地のあらゆる美と恵みは、常に太陽のおかげであり、太陽自体も見上げるだけで心奪われる存在である。その姿を消し、不在となる時間が段々長くなるにつれ、大地を寒さと暗闇に置き去りにしてしまう。ようやく再び戻ってくると、長く晴れやかな日々をもたらし、春の息吹を蘇らせる。日本の伝説は、隠れてしまった太陽を、どのように誘き出したかを伝える。太陽光線のような放射をする若木を象った銅板、焚き火、踊り、祈りを捧げるに依るという。地球の裏側になる北米のチェロキー族も同じく、太陽の好奇心をそそり、自身の「分身」を見届けるべく、何が起きているのか確かめに来るべく仕向けることで、北へ向かう軌道に太陽を呼び戻せると信じていた。

  The sun has always marked out work-time and rest, divided the year into winter idleness, seed-time, growth, and harvest ; it has always been responsible for all the beauty and goodness of the earth ; it is itself splendid to look upon. It goes away and stays longer and longer, leaving the land in cold and gloom ; it returns bringing the long fair days and resurrection of spring. A Japanese legend tells how the hidden sun was lured out by an image made of a copper plate with saplings radiating from it like sunbeams*1, and a fire kindled, dancing, and prayers ; and round the earth in North America the Cherokees believed they brought the sun back upon its northward path by the same means of rousing its curiosity, so that it would come out to see its counterpart and find out what was going on.

ja.wikipedia.org


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 教会の主要な祝祭はたいてい、太陽を祀る古い儀式の名残である。
「教会は、キリスト教という新しいぶどう酒を、異教という古い革袋に何度注ぎ替えてきたことか。」*2:
ユール・タイド(冬至の祭り)、すなわち異教のクリスマスは、太陽が北へ向かうことを祝うものであり、古来の夏至の祭りは、アイルランドやヨーロッパ大陸では「聖ヨハネの祝日」として今も受け継がれており、火を焚き、その周囲で、太陽の動きになぞらえて東から西へと踊る習慣が残っている。夏の終わりにあった異教の「ハロウィーン」は、太陽の輝きが衰えていくことを嘆く悲しみの時であると同時に、穀物や果実を実らせてくれた太陽に感謝を捧げる収穫祭でもあった。これは、かつて収穫の後に人々が集まって脱穀の集い(ハスキング・ビー)を行ったことや、今日なお私たちが、収穫をもたらしてくださる神を賛美しつつ、冬の蓄えを分かち合って祝う「感謝祭」の習慣と通じている。

  All the more important church festivals are survivals of old rites to the sun. "How many times the Church has decanted the new wine of Christianity into the old bottles of heathendom." Yule-tide, the pagan Christmas, celebrated the sun's turning north, and the old midsummer holiday is still kept in Ireland and on the Continent as St. John's Day by the lighting of bonfires and a dance about them from east to west as the sun appears to move. The pagan Hallowe'en at the end of summer was a time of grief for the decline of the sun's glory, as well as a harvest festival of thanksgiving to him for having ripened the grain and fruit, as we formerly had husking-bees when the ears had been garnered, and now keep our own Thanksgiving by eating of our winter store in praise of God who gives us our increase.

Vertumnus and Pomona by Peter Paul Rubens

 コモナの果樹の女神ポーモーナは、ハロウィーンに「収穫」という要素をもたらした。ケルトの「夏の終わり」の日は、霊さまざま――その多くは邪悪なもの――が百鬼夜行する時節であった。キリスト教伝来により、その座を追われた神々も、こうした不吉な群れに加わった。教会の祝日である「万聖節」と「万霊節」が、同じ11月1日に重なることで、死者がこの世に戻ってくるという観念が加わった。さらに、ゲルマン伝承における「五月前夜(メイ・イヴ)」*3の魔女の集会からは、魔女たちやその使いの獣が加わり、10月31日の夜を彩ることとなった。

  Pomona, the Koman goddess of fruit, lends us the harvest element of Hallowe'en ; the Celtic day of "summer's end" was a time when spirits, mostly evil, were abroad; the gods whom Christ dethroned joined the ill-omened throng ; the Church festivals of All Saints' and All Souls' coming at the same time of year—the first of November—contributed the idea of the return of the dead; and the Teutonic May Eve assemblage of witches brought its hags and their attendant beasts to help celebrate the night of October 31st.


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第1章訳注

*1:
この描写は若干の勘違いを含むと思われるので、当時の錦絵を貼っておく
*2: マタイによる福音書9章
17 だれも、新しいぶどう酒を古い皮袋に入れはしない。もしそんなことをしたら、その皮袋は張り裂け、酒は流れ出るし、皮袋もむだになる。だから、新しいぶどう酒は新しい皮袋に入れるべきである。そうすれば両方とも長もちがするであろう」。
*3: May Eve
五月祭(メイ・デイ)の前夜祭、即ちヴァルプルギスの夜

第2章。ケルト人:その信仰と祭典

CHAPTER II
THE CELTS : THEIR RELIGION AND
FESTIVALS


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 ブリテン島に関し、ヨーロッパの年代記に於て、知られる限り最初の言及は、紀元前5世紀ギリシャの歴史家ヘロドトスによるもので、フェニキアの船乗りたちが錫を求めてブリテン諸島へ行ったと記されている。彼はこの諸島を「錫の島」と呼んだ。この船乗りたちが交易を行った相手は、ケルト人であったに違いない。なぜなら、彼らは石に代えて金属を加工した最初のブリテン住民だったからである。

  The first reference to Great Britain in European annals of which we know was the statement in the fifth century b. c. of the Greek historian Herodotus, that Phoenician sailors went to the British Isles for tin. He called them the "Tin Islands." The people with whom these sailors traded must have been Celts, for they were the first inhabitants of Britain who worked in metal instead of stone.


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 ドルイドは、キリスト降誕より数世紀前からケルト人の祭司であった。彼らが最初にアイルランドにやってきたのは、聖パトリックに先立つこと700年前、紀元前270年になるという伝承がアイルランドにはある。彼らに関する、キリスト降誕の半世紀前にユリウス・カエサルが書いた記述は、主にガリアのケルト人について述べており、庶民をほぼ奴隷の境遇に置いていた支配階級を2つに分けている。戦争を遂行する騎士と。礼拝と犠牲を司り、医師・歴史家・教師・科学者・裁判官でもあったドルイドに。

  The Druids were priest  of the Celts centuries before Christ came. There is a tradition in Ireland that they first arrived there in 270 B.C., seven hundred years before St. Patrick. The account of them written by Julius Cæsar half a century before Christ speaks mainly of the Celts of Gaul, dividing them into two ruling classes who kept the people almost in a state of slavery; the knights, who waged war, and the Druids who had charge of worship and sacrifices, and were in addition physicians, historians, teachers,scientists, and judges.

 カエサルによれば、この信仰はブリテン島で始まり、ガリアへ伝わったという。ガリアとブリテン島は宗教も言語も共通しており、王まで同一だった可能性もあるので、カエサルがガリアのドルイド教徒について書いたことは、ブリテン島にも当てはまっていたに違いない。

  Cæsar says that this cult originated in Britain, and was transferred to Gaul. Gaul and Britain had one religion and one language, and might even have one king, so that what Cæsar wrote of Gallic Druids must have been true of British.


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 ケルト人は、ギリシャ人その他の古代民族と同様に、森や川の精霊を崇拝し、邪霊の力を恐れていた。彼らの原始的な信仰の多くは今もなお受け継がれており、スコットランド・アイルランド・ウェールズの百姓にとって、小川・丘・谷・岩は無数の超常的な小人さんが住む処であり、彼等は善くも悪くも振舞うものであり、幣(まいない)してご機嫌取りしなければ、ちらつく光で人を惑わせたり、7年間の隷属状態に陥れたりするものと信じられている。

  The Celts worshipped spirits of forest and stream, and feared the powers of evil, as did the Greeks and all other early races. Very much of their primitive belief has been kept, so that to Scotch, Irish, and Welsh peasantry; brooks, hills, dales, and rocks abound in tiny supernatural beings, who may work them good or evil, lead them astray by flickering lights, or charm them into seven years' servitude unless they are bribed*2-1 to show favor.

 「ドルイド」という名称は、ケルト語で「賢者」を意味する druidh(ドルイド) に由来し、これはギリシャ語で「樫(オーク)」を意味する drus(ドルス) とも関連している。樫の木は彼等から、全能の神の象徴として神聖視されていたので。彼等は、樫の木に寄生するヤドリギよろしく、その神に自らの命を委ねていたのである。その儀式は、樫の木立の中で執り行われた。

  The name "Druid " is derived from the Celtic word "druidh," meaning "sage," connected with the Greek word for oak, " drus,"  for the oak was held sacred by them as a symbol of the omnipotent god, upon whom they depended for life like the mistletoe growing upon it. Their ceremonies were held in oak-groves.

「そびえ立つは樫の木……
 その前に震えよ、天も地も。
 敵に対する頑強な門衛。
 どの国でも彼が名は我が物。」

"The rapid oak-tree —
Before him heaven and earth quake:
Stout door-keeper against the foe.
In every land his name is mine."

タリエシン:木々の戦い。
Taliesin : Battle of the Trees.

 後にその名称から「魔術師」を意味する言葉が生まれ、これらの祭司たちが魔術取扱いとして評判を得ていたことが示された。

  Later from their name a word meaning "magician " was formed, showing that these priests had gained the reputation of being dealers in magic.

「ドルイドは彼の後を追い、伝えられるところによれば、突然ドルイドの杖で彼を殴りつけた。あるいは一説では、ドルイドの呪文を掛けておいた草の束を投げつけた。」

"The Druid followed him and suddenly, as we are told, struck him with a druidic wand, or according to one version, flung at him a tuft of grass over which he had pronounced a druidical incantation."

オカリー:古代アイルランド
O'CURRY; Ancient Irish.

 ドルイドは徴(しるし)を扱っていた。ありふれた事物に、霊の働きによって、特定の事実を示す意味や、特定の効果をもたらす力が与えられたものであった。樹木を崇拝していたため、樹木や植物には特別な力が宿ると考えられていた。

They dealt in symbols, common objects to which was given by the interposition of spirits, meaning to signify certain facts, and power to produce certain effects. Since they were tree-worshippers, trees and plants were thought to have peculiar powers.

 カエサルはドルイドにローマの神々を齎した。メルクリウス・マルス・ユピテル・ミネルヴァ、当然ながら彼等はそれぞれの土着名にて崇拝した。主神はバアルであり、太陽はバアルの目に見える標章であると信じられた。バアルを表象するには、円や車輪といった簡潔な象徴を以てした。三つ葉が、中心から放射状に伸びる、翼ある足3本で構成された形に変化することで、太陽の通幸(みちゆき)の速さを表した。露や小川に太陽の光が当たると、小さな明るい十字架のように眇めた目には見えることから、十字架もまた、太陽の象徴とされた。十字架の形の一つが卍(まんじ)であった。

  Cæsar provides them with a galaxy of Roman divinities. Mercury, Mars, Jupiter, and Minerva, who of course were worshipped under their native names. *2-2.:Their chief god was Baal, of whom they believed the sun the visible emblem. They represented him by lowlier tokens, such as circles and wheels. The trefoil, changed into a figure composed of three winged feet radiating from a center, represented the swiftness of the sun's journey. The cross too was a symbol of the sun, being the appearance of its light shintng upon dew or stream, making to the half-closed eye little bright crosses. One form of the cross was the swastika.

 ドルイドはバアルに対し、犯罪者や捕虜を生贄として捧げ、時には生きたまま編み細工に容れて焚いた。丘に赫然たるこうした焚火は、作物や家畜を守り、祝福するよう神に促すものであった。生贄が焼かれる様子からは、未来を予言する前兆が読み取られた。祈りに応える神々その他の超常的な力は、前兆を通じてその意志を示すと考えられていたほか、以下の方法によってもその意志が示されると考えられていた。「神明裁判」では、人が火焔その他の拷問に耐えることを神が許す度合いによって、罪過の有無を審判する。「悪魔祓い」では、神秘的な文句や神名を唱えることで、悪魔を追い払う。神々の意志の解釈に長じるにつれ、やがてドルイドたちは、預言者として知られるようになった。

  To Baal they made sacrifices of criminals or prisoners of war, often burning them alive in wicker images*2-3. These bonfires lighted on the hills were meant to urge the god to protect and bless the crops and herds. From the appearance of the victims sacrificed in them, omens were taken that foretold the future. The gods and other supernatural powers in answer to prayer were thought to signify their will by omens, and also by the following methods: the ordeal, in which the innocence or guilt of a person was shown by the way the god permitted him to endure fire or other torture; exorcism, the driving out of demons by saying mysterious words or names over them. Becoming skilled in interpreting the will of the gods, the Druids came to be known as prophets.

「ああディアドラよ、恐るべき子よ、
 汝、我等が破滅の赤い星よ、
 アイルランドに大いなる嘆き在らんことを。
  おお、亀裂がウラの村に。

"O Deirdre, terrible child,
  For thee, red star of our ruin,
  Great weeping shall be in Eri—
        Woe, woe, and a breach in Ulla. 

(中略)

「汝のかかとは全能者をも砕くであろう、
 しかして愛する者の頭に躓くであろう。」

“Thy feet shall trample the mighty
Yet stumble on heads thou lovest.”*2-4

トドハンター:カスバによるドルイドの歌。
TODHUNTER : Druid song of Cathvah.*2-5

 ドルイドは伝承の大半について秘密を守り、書き記すことを禁じ、口伝により受け継ぐものとした。魂は不滅であり、死に於て一つの肉体から別の肉体へ受け渡されるものと考えた。

  They kept their lore for the most part a secret, forbidding it to be written, passing it down by word of mouth. They taught the immortality of the soul, that it passed from one body to another at death.

「もし、ブリテンの儀式を守り、
        暗い森に住み、そこで
        精霊たちと語り合った
        ドルイドが説いた通りなら、
死によって私たちの魂が
        肉体から離れるとき、
即座に別の肉体へそれは
        宿る……」

" If, as those Druids taught, which kept
        the British rites,
And dwelt in darksome groves, there
        counselling with sprites,
When these our souls by death our
        bodies do forsake
They instantly again do other bodies
        take―― " 

ドレイトン:ポリオルビオン
Drayton : Polyolbion.*2-6

ケルト暦による大晦日(10月31日)の夜には、その年に亡くなり、動物の身体に宿る定めとなった全ての魂を、死の王が一堂に集め、翌12ヶ月間どのような姿で生きることになるかを宣告すると信じられた。贈り物や祈りを捧げることで、死の王の機嫌を取り、より軽い処罰を下してもらえる可能性もあった。

They believed that on the last night of the old year (October 31st)*2-7 the lord of death gathered together the souls of all those who had died in the passing year and had been condemned to live in the bodies of animals, to decree what forms they should inhabit for the next twelve months. He could be coaxed to give lighter sentences by gifts and prayers.

 ドルイド入信者の証はガラス球で、伝えられるところによれば、夏の間に蛇の唾から作られるもので、空中に蛇が投じたところを、祭司たちが受け止めたものだという。本当はドルイド自身が吹き上げたガラスだった。佩用すれば訴訟に勝ち、王の寵愛を得る一助になるとされた。

  The badge of the initiated Druid was a glass ball*2-8 reported to be made in summer of the spittle of snakes, and caught by the priests as the snakes tossed it into the air. It was real glass, blown by the Druids themselves. It was supposed to aid the wearer in winning lawsuits and securing the favor of kings.

「力ある毒蛇の石は、
 生み出される、秋の月が昇る前に
 うねる絡み合いの中、
 泡吹く蛇たち、豊かに交わる折に。」

“And the potent adder-stone
Gender'd 'fore the autumnal moon
When in undulating twine
The foaming snakes prolific join.”

メイソン:カラクタクス。
Mason : Caractacus.

 ドルイドから神聖とされた動物が、猫であった。在りし日には「いぶし銀の鎖に寝そべるほっそりした猫」が宝物を守護した。猫は長い間、人が邪悪な手段により変身させられた形態だとして、人々に畏れられた。

  An animal sacred to the Druids was the cat. "A slender black cat reclining on a chain of old silver"*2-9 guarded treasure in the old days. For a long time cats were dreaded by the people because they thought human beings had been changed to that form by evil means.*2-10

 ドルイドの主要な祭りは4日間にわたって執り行われ、太陽の運行の各段階を祝うものであった。春分や夏至の祝祭には特に、また例外的に11月1日にも、生贄の火が焚かれた。

  The chief festivals of the Druids fell on four days, celebrating phases of the sun's career. Fires of sacrifice were lighted especially at spring and midsummer holidays, by exception on November 1st.

 5月1日と11月1日は、春分でも夏至・冬至でもないが、夏の始まりと終わりとしてより重要視されていた。当時の時候は、種まきや収穫に合わせてではなく、春に家畜を牧草地に放牧し、冬が近づくと再び囲いの中に連れ戻すという、より古い、農業民より牧畜民に傾いた方法によって区切られていた。

  May Day and November Day were the more important, the beginning and end of summer, yet neither equinoxes nor solstices. The time was divided then not according to sowing and reaping, but by the older method of reckoning from when the herds were turned out to pasture in the spring and brought into the fold again at the approach of winter—by a pastoral rather than an agricultural people.

 5月1日を控えたベルテイン(「バアルの火」)の前夜には、夏を齎す太陽の回帰を祝うため、バアルに捧げる火が焚かれた。日の出前から、昇ってくる太陽を歓迎すべく、家々が花飾りで彩られた。この習わしは、後に「五月御幸」として受け継がれることとなる。五月祭(メイ・デイ)の火には、浄化の役割もあった。家畜は炎の近くに連れて行かれてその身を火で炙られ、時には豊穣な季節を願う生贄として、その血が捧げられることもあった。焚き火の中でケーキが焼かれ、うち一切れは炭で黒くされた。黒いのを引いた者は、バアル神への生贄に選ばれたことになる。ヨナが海に投げ込まれた後、船が無事に航海を続けられたのと同様に、バアル神がくじによって指名した者を取り除くことで、メイ・イヴ(5月前夜祭)の焚き火を囲む集団の運勢が好転すると考えられたのである。後には生贄の象徴のみが用いられるようになり、犠牲者は炎の上を3度まで飛び越えることを強いられた。

  On the night before Beltaine ("Baal-fire"), the first of May, fires were burned to Baal to celebrate the return of the sun bringing summer. Before sunrise the houses were decked with garlands to gladden the sun when he appeared; a rite which has survived in "going maying." The May-Day fires were used for purification. Cattle were singed by being led near the flames, and sometimes bled that their blood might be offered as a sacrifice for a prosperous season. A cake was baked in the fire with one piece blacked with charcoal. Whoever got the black piece was thereby marked for sacrificeto Baal, so that, as the ship proceeded in safety after Jonah was cast overboard, the affairs of the group about the May-Eve fire might prosper when it was purged of the one whom Baal designated by lot. Later only the symbol of offering was used, the victim being forced to leap thrice over the flames.

「時に、見よ!炎が、
赤い光の波打つ炎が
飛び上がり、農場の柵を越えた。
子供たちの叫びが高々響き渡る中、
農夫は牛をゆっくり追い立てた。
火焔の向こう側へ……何がなんやら。」

" When lo ! a flame,
A wavy flame of ruddy light
Leaped up, the farmyard fence above.
And while his children's shout rang high,
His cows the farmer slowly drove
Across the blaze,—he knew not why."

キックハム:聖ヨハネの夜。
KICKHAM: St. John's Eve.

 歴史上、それは「善の到来」の日であった。アイルランドの発見者であり、その発展に貢献したパーソロンは、異界からこの地へやって来て、三百年の間滞在することとなった。アイルランドの解放者である神々自身もまた、メーデーの日に「空を飛んで」この地に初めて到着したのである。

  In history it was the day of the coming of good. Partholon, the discoverer and promoter of Ireland, came thither from the other world to stay three hundred years. The gods themselves, the deliverers of Ireland, first arrived there " through the air " on May Day.

 6月21日、夏至の日、太陽の力が最高潮に達するこの日は、真夜中に喜びの火が焚かれ、踊りが捧げられた。これが太陽の熱を強めると信じられていた。太陽を模る燃え盛る車輪が、丘を転がり落とされた。

  June 21st, the day of the summer solstice, the height of the sun's power, was marked by midnight fires of joy and by dances. These were believed to strengthen the sun's heat.
A blazing wheel to represent the sun was rolled down hill.

youtube.com

「いい考えが浮かんだ。
 この車輪を寄越すんだ。
 ロープで縛りつけ、
 ピッチを塗りつけ。
 火をつけたら、転がそう
 一番急な斜面を。」

" A happy thought.
Give me this cart-wheel.
I'll have it tied with ropes and smeared
with pitch,
And when it's lighted, I will roll it down
The steepest hillside."

ハウプトマン『沈める鐘』
Hauptmann: Sunken Bell.
(Lewisohn trans.')

精霊が徘徊すると信じられていたので、畑が襲われるのを防ぐため、松明を掲げて巡回するという習わしがあった。その夜にはシダや麻の種を使ったまじないが行われ、見る夢は予言的な意味を持つと信じられていた。

Spirits were believed to be abroad, and torches were carried about the fields to protect them from invasion. Charms were tried on that night with seeds of fern and hemp, and dreams were believed to be prophetic.

「時の流れ来ることも有ろうか
 果てしない享楽と不死の逸楽から……
 遂には、疲れ果てた妖精たちのただ中……
 おまえの愛した者が、目の前で消えゆく時が、
 おまえの目の前で消えゆき、霧と化して
 捕らえられ、光あふれるルーの手に、
 日の神に。」

" The hour may hither drift
When at the last, amid the o'erwearied Shee —
Weary of long delight and deathless joys —
One you shall love may fade before your eyes,
Before your eyes may fade, and be as mist
Caught in the sunny hollow of Lu's hand,
Lord of the Day."

シャープ:不朽の時。
Sharp : Immortal Hour.

(古ハイランド語で「夏の太陽」を意味する)ルーは、神の一柱を父に、敵の部族長の娘を母にして生まれた。そのため善と悪、両方の性質が備わっていた。彼はケルト神話におけるメルクリウス(ヘルメス)に相当する存在かもしれない。というのも、魔法や錬金術、あるいは欺瞞に長け、悪魔との戦いに勝利し、国民に新たな力と浄化を齎すという点で共通しているからである。ルーは権力の座を8月1日に退いたが、養母を亡くした日でもあったので、その日を自身の祝祭日と定めた。この祭りは Lugnasad(ルーナサ)、やがて収穫を齎す大地との「ルーの婚礼」と呼ばれた。収穫の初穂が捧げられ、競走その他さまざまな運動競技が行われた。アイルランドのミース地方では、19世紀に至るまで、8月の第1週に踊りや競馬が催されていた。

  Lugh, in old Highland speech "the summer
sun" had for father one of the gods and for mother the daughter of a chief of the enemy. Hence he possessed some good and some evil tendencies. He may be the Celtic Mercury, for they were alike skilled in magic and alchemy, in deception, successful in combats with demons, the bringers of new strength and cleansing to the nation. He said farewell to power on the first of August, and his fostermother had died on that day, so then it was he set his feast-day. The occasion was called  “Lugnasad,” “the bridal of Lugh” and the earth, whence the harvest should spring. It was celebrated by the offering of the first fruits of harvest, and by races and athletic sports. In Meath, Ireland, this continued down into the nineteenth century, with dancing and horse-racing the first week of August.

A Witches'-Caldron Table.

A Black-Cat Table.
Hallowe'en Table II.

第2章訳注

*2-1.:bribe:
「贈賄」であり、嘗ては神への「捧呈」でもあった。この辺りの感覚は、わが国に於ける「幣」が「ぬさ」であり「みてぐら」であり「まひ」「まひなひ(賄賂)」であった事情に通じる。

万葉集 九〇五
「まひはせむしたへの使ひ負ひて通らせ」

kobun.weblio.jp

*2-2.:Their chief god was Baal:
Baal(バアル)は、メソポタミアで「主」を意味し最高神の称号となった Bel(ベル)に由来し、中東一円で信仰された神。メソポタミアでは称号であったから、中の人はエンリルであったりマルドゥクであったりしたが、その辺はメソポタミアから離れると忘れられ、称号が神として独り歩きした。しかしブリテン島で崇められた形跡はなく、おそらくフェニキア人が植民地に宣べ伝えたバアル・ハモンの事であろう。
この章は概ねユリウス・カエサル(ジュリアス・シーザー)『ガリア戦記』に依拠しつつも、主神については異なり、カエサルは次のように記す。

彼ら(ガリア人)は神々のなかでメルクリウスを最も崇拝している。その像は非常に多く、この神は全ての技術の発明者であり、道と旅行者を導き、金儲けや交易に対して、最も大きな力を持っていると信じられている。この神の次には、アポロン、マルス、ユピテル、ミネルウァを崇拝する。これらの神々については、他の人々が考えるのと全く同じように考えている。アポロンは病気を追い払い、ミネルウァは工芸や技芸の基礎を伝え、ユピテルは天の支配権を持っており、マルスは戦争を支配している。

疋田隆康『古代ガリア社会におけるケルトの伝統』

*2-3.:wicker image:
wicker man というものがあって、編み細工(wicker)で出来た人型の構造物を意味する。ドルイド教における供犠・人身御供の一種で、生贄に捧げる家畜や人間を、巨大な人型の檻に閉じ込めたまま焼き殺す祭儀があったという。但しカエサルとストラボンの聞き書き以外に史料がなく、描かれた絵は18世紀の想像図に過ぎず、実在性は甚だ怪しい

ja.wikipedia.org

*2-4.:Thy feet shall . . . : 創世記3章
15 わたしは恨みをおく、
おまえと女とのあいだに、
おまえのすえと女のすえとの間に。彼はおまえのかしらを砕き、
おまえは彼のかかとを砕くであろう」。
*2-5.:Druid song of Cathvah.

この詩は John Todhunter: Three Irish Bardic Tales に、登場人物 Cathvah の歌として収録され、全体は以下の通り。Eri はアイルランド(現代アイルランド語Éire。古アイルランド語Ériuから、Ériu はアイルランドの女神)、Ulla はアイルランドの村 Oola のアイルランド語 Úlla をいう

THE DRUID SONG OF CATHVAH.

1.

O Deirdre, terrible child, 
For thee, red star of our ruin, 
Great weeping shall be in Eri, 
Woe, woe, and a breach in Ulla !

2. 

The flame of thy dawn shall kindle 
The pride of Kings to possess thee, 
The spite of Queens for thy slander
In seas of blood is thy setting.

3.

War, war is thy bridesmaid, 
Thou soft, small whelp of terror ; 
Thy feet shall trample the mighty, 
Yet stumble on heads thou lovest.

4. 

The little heap of thy grave
Shall dwell in thy desolation ; 
Sad songs shall wail over Eri 
Thy dolorous name, O Deirdre !

*2-6.:Polyolbion:
Poly-Olbion(「有頂天」、1613) は、イングランドとウェールズを描写した、30歌からなる Michael Drayton (1563–1631) の詩集。

*2-7.:the last night of the old year (October 31st):

Ccferrie, 2017 CC BY-SA 4.0

ゲール暦(ケルト暦の一種)では11月1日を Samhain(サウイン、ウェールズでは Calan Gaeaf)と呼ぶ元日、10月31日を大晦日とする。サウインについては次章

en.wikipedia.org

*2-8.:a glass ball:
Ouvum Anguinum(蛇の卵)と呼ばれるドルイドの証については、大プリニウス『博物誌』の記述に依存している。

「ギリシャ人には忘れ去られているが、ガリアでは非常に名高い、ある種の『卵』が存在する。夏になると、数え切れないほどの蛇が集まり、互いの体から出る粘液や泡で絡み合い、くっつき合う。これを『蛇の卵』と呼ぶ。この卵は、かの爬虫類の発するシューという音によって空中に放り出されるものであり、地面に落ちる前に外套(マント)で受け止めなければならないとドルイドたちはいう。私自身、それを見たことがある。中くらいの丸いリンゴほどの大きさで、軟骨質の殻には、タコの吸盤のような、多数のくぼみがある。ドルイドたちには非常に珍重されており、裁判に勝ったり、王の寵愛を得たりする驚くべき効能があると吹聴されているが、これは正しくない。ヴォコンティ族の地出身のローマ騎士が、この卵を裁判の際に身につけていたところ、皇帝クラウディウスによって処刑された。私の知る限り、その理由は将に、彼がその卵を所持していたこと以外にない。とはいえ、こうした蛇同士の絡み合いや、その生殖を伴う結合こそが、平和の象徴であるカドゥケウス(ヘルメスの杖)に異国の人々が蛇の意匠を施すに至った理由なのかもしれない。もっとも、カドゥケウスの蛇には通常、冠などはつかないのだが。」

fr.wikipedia.org

ガラス玉はこの記述に合わず、雲丹の化石とする説が18世紀から支持されているものの、向こうでは珍しくもないそんなものを大プリニウスが見間違えるとも考えにくいという。

www.strangehistory.net

*2-9.:"A slender black cat reclining on a chain of old silver":
引用句に見えるけれど、本書以外に見当たらず、出典不明。猫神様と言えばエジプトのバステトだが、鎖を着けるなど考えられない。猫科の動物と考えれば、門衛として置かれたアナトリアのライオン像が、ペルシャ・天竺・唐を経てわが国の狛犬となった例から、ライオン像またはスフィンクスその他ライオン由来の像を指した可能性を指摘しておく。
*2-10.:changed to that form . . .:
ケット・シー (Cait Sith)は死者の魂を取り込むとされるので、あるいはこの事かもしれない

第3章
サウイン

CHAPTER III
SAMHAIN


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「わが報せ受け給へ。
  牡鹿争ひぬ、
  雪降りつむ……
  夏は終りぬ!

“ Take my tidings:
        Stags contend;
        Snows descend —
        Summer's end!

「木枯らし吹き荒れ、
  日は這い渡り、
  沈むは素早く
 海の高みすり抜け。

“A chill wind raging,
        The sun low keeping,
        Swift to set
  O'er seas high sweeping.

「シダも紅くくすむ
  影も形も。
  野の雁も悼む
 越えつつ、霧の原を。

“Dull red the fern;
        Shapes are shadows;
        Wild geese mourn
  O'er misty meadows.

「冷え冷えとした城壁に翼弱り果て、
  凍てつく時……
  将に歌うべき!
 わが報せ受け給へ。」

“Keen cold limes each weaker wing,
        Icy times —
        Such I sing!
        Take my tidings."

ジーベス:冬一番の歌
Geaves : First Winter Song.

digventures.com


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 11月1日はサウイン(夏の終わり)。この日、家畜の群れは牧場から連れ戻され、人々は収穫の労苦を終えて、ようやく一息つけるようになった。収穫への感謝としてバアルに火が焚かれた。祭壇の古い火は10月31日の夜までに消され、すべての聖なる火と同様に、火鑽(ひきり)*3-1によって新しい火が起こされた。これは「押し着けた火」と呼ばれた。車輪と紡錘(つむ)を用い、太陽を象徴する車輪が、太陽の巡る方向に沿って東から西へと回された。生じた火花を麻くずに受け、祭壇で燃え上がらせてから火を移して、丘の頂に焚き火を灯した。翌朝、新年の日に、この新しい火を祭司たちが人々に分け与え、火が消されていた全ての炉に灯させた。この祝福された火は、それが温める家を、一年を通じて守るものと考えられていた。アイルランドでは、ミース州ウォードの丘にある「トラクトガ」がその祭壇とされ、そこで生贄(特に黒い羊)が新たな火で焼かれた。死に瀕した動物たちの足掻きや表情から、来るべき一年の吉兆が読み取られた。

  On November first was Samhain ("summer's end"). Then the flocks were driven in, and men first had leisure after harvest toil. Fires were built as a thanksgiving to Baal for harvest. The old fire on the altar was quenched before the night of October 31st, and the new one made, as were all sacred fires, by friction. It was called "forcedfire." A wheel and a spindle were used: the wheel, the sun symbol, was turned from east to west, sunwise. The sparks were caught in tow, blazed upon the altar, and were passed on to light the hilltop fires. The new fire was given next morning, New Year's Day, by the priests to the people to light their hearths, where all fires had been extinguished. The blessed fire was thought to protect the year through the home it warmed. In Ireland the altar was Tlactga, on the hill of Ward in Meath, where sacrifices, especially black sheep, were burnt in the new fire. From the death struggles and look of the creatures omens for the future year were taken.

 一年が終わり、太陽の一年の命も尽きた。当時のケルトの人々は、太陽が冬の闇の力に屈し、六ヶ月間その犠牲になると考えていた。エジプト神話では、太陽神の一柱であるオシリスが、宴の席で、闇の神である兄弟セトによって殺害されたとされている。この殺害の記念日、すなわち冬の初日は、悪霊が勢力を振るうため、不運を招くことを恐れたエジプト人は、誰も新たな事業を始めようとはしなかった。

  The year was over, and the sun's life of a year was done. The Celts thought that at this time the sun fell a victim for six months
to the powers of winter darkness. In Egyptian mythology one of the sun-gods, Osiris,
was slain by a banquet by his brother Sitou,
the god of darkness. On the anniversary of
the murder, the first day of winter, no Egyptian would begin any new business for fear of
bad luck, since the spirit of evil was then in
power.

  「この日に太陽が敵から苦しめられた」という発想から、サウインと死との結びつきが生まれた。

  From the idea that the sun suffered from
his enemies on this day grew the association
of Samhain with death.


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「憂鬱の日々来れり、侘びしき半年、
 風の鳴き叫び、落葉した林、茶色く枯れた牧草地。
 森の窪みに降り積もる、枯葉は横たわる死体。
 ざわめかすは渦巻く突風、兎の踏みつけ。
 コマドリとミソサザイ飛び去った、低木からはカケスが
 森の梢からはカラスが鳴く、陰鬱な一日中ずっと。」

" The melancholy days are come, the saddest of the year,
Of wailing winds, and naked woods, and meadows brown and sere. 
Heaped in the hollows of the grove, the wither'd leaves lie dead;
They rustle to the eddying gust, and to the rabbit's tread.
The robin and the wren are flown, and from the shrub the jay
And from the wood-top calls the crow, through all the gloomy day.

「アネモネとスミレは、とっくの昔に消えてなくなった。
野バラと蘭は、夏の輝きの中で枯れてしまった。
しかし丘にはセイタカアワダチソウ、森にはアスター、
小川のほとりには黄色いヒマワリ、秋の美を競い立つも、
遂に疫病が人に降りかかるように、冷たく澄んだ空から降りる霜、
花々の笑顔の輝きも消え去る、高地から、空き地から、谷間からも。

" The wind-flower and the violet, they perished long ago,
And the wild rose and the orchis died amid the summer glow:
Bat on the hill the golden-rod, and the aster in the wood,
And the yellow sun-flower by the brook in autumn beauty stood,
Till fell the frost from the cold clear heaven, as falls the plague on men,
And the brightness of their smile was gone
from upland, glade, and glen."

ブライアント:花々の死。
Bryant : Death of The Flowers.


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 生まれたこともない者たちは、死者と同じ境遇にあり、確かにこの世に存在しているものの、ほとんどの場合、普通の人間には見えない。占い師ならいつでも見ることができるので、もし多数が同時に外出していれば、他の人々も見る機会を得られたかもしれない。こうした超常的な精霊たちは、死者たちに君臨していた。精霊には二つの階級があった。一つは光と生命の神族である「女神ダヌの民」トゥアハ・デ・ダナン、もう一つは闇と悪の精霊である。トゥアハ・デ・ダナンは、アイルランド海の真ん中にあるマン島を拠点とし、周囲の島々をその支配下に置いた。夏至の日、彼等はフィル・ボルグ族をマイ・トゥリャの戦いで打ち破り、アイルランドの大部分を手中に収めたのである。

  In the same state as those who are dead, are those who have never lived, dwelling right in the world, but invisible to most mortals at most times. Seers could see them at any time, and if very many were abroad at once others might get a chance to watch them too. These supernatural spirits ruled the dead.  There were two classes : the Tuatha De Danann, " the people of the goddess Danu," gods of light and life ; and spirits of darkness and evil. The Tuatha had their chief seat on the Isle of Man, in the middle of the Irish Sea, and brought under their power the islands about them. On a Midsummer Day they vanquished the Fir Bolgs and gained most of Ireland, by the battle of Moytura.

「私たちが住むこの世がある、
 目には見えないあの世もある。
 思うでない、有り得ないなどとは
 全てではない、目に見えるだけが
 言っておこう、将にこの時にだ、
 君の視覚が霊能を得たならば。
 目と目を見合わせることになろうよ、
 恐るべき一団と。」

" There is a world in which we dwell,
And yet a world invisible.
And do not think that naught can be
Save only what with eyes ye see; 
I tell ye that, this very hour,
Had but your sight a spirit's power.
Ye would be looking, eye to eye.
At a terrific company."

コックス:ハロウィーン。
COXE : Hallowe'en.


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 それから長い時が経ち、おそらく紀元前1000年頃、海の魔物フォモール族が、疫病によって敵のほとんどを滅ぼし尽くすと、生き残った者たちから貢ぎ物として「穀物の3分の1、乳の3分の1、そして子供の3分の1」を徴収した。この租税は、サウインの日に納められていた。フォモール族がアイルランドに上陸したのは、サウインの1週間前。そしてサウインの前夜、神々は第二次マイ・トゥリャ戦に於て対峙した彼等を、海へ追い返した。

  A long time afterwards—perhaps 1000 b. c. —the Fomor, sea-demons, after destroying nearly all their enemies by plagues, exacted from those remaining, as tribute, " a third part of their corn, a third part of their milk, and a third part of their children." This tax was paid on Samhain. It was on the week before Samhain that the Fomor landed upon Ireland. On the eve of Samhain the gods met them in the second battle of Moytura, and they were driven back into the ocean.

「来(きた)りますティゲルンマス、かのタラの君侯
 ハロウィンに軍勢あまた率いて。
 そは悲しみの種とは成りぬ、
 何となれば男たち逝き果て
 バンバの軍勢が、甲斐もなく
 北の破壊者ティゲルンマスの取り巻きが、 
 クロム・クルアハへの礼拝にて。つくづく不運な。
 知る限り、ゲール人のうち
 勘の良い1/4を除き、
 一人もない、罠を生き延びた!
 虎口をまぬがれた者などは。」

" Then came
Tigernmas, the prince of Tara yonder
On Hallowe'en with many hosts.
A cause of grief to them was the deed.
Dead were the men
Of Bamba's host, without happy strength
Around Tigernmas, the destructive man of
the north,
From the worship of Crom Cruaich. 'T was no luck for them.
For I have learnt,
Except one-fourth of the keen Gaels,
Not a man alive—lasting the snare ! 
Escaped without death in his mouth."

『風土記(ディンシェンチャス)』所収『ひれ伏しの原(マー・スレクト)』(マイヤー訳)。
Dinnsenchits of Mag Slecht (Meyer trans.').*3-2

 アイルランドの伝説の王ティゲルンマスが、王の偶像クロム・クルアハに「あらゆる産子の初子」や「各氏族の末裔たち」を捧げ、その像の前にひれ伏していたとき、彼自身と配下の3/4が謎の失踪を遂げた。これは直接的な祈禱であったが、その後も長く続けられた火の儀式は実のところ、太陽に最も近い身代わりである「火」を介しての、太陽崇拝にほかならない。

  As Tigernmas, a mythical king of Ireland, was sacrificing " the firstlings of every issue, and the scions of every clan " to Crom Croich, the king idol, and lay prostrate before the image, he and three-fourths of his men mysteriously disappeared. This was direct invocation, but the fire rites which were continued so long afterwards were  really only worshipping the sun by proxy, in his nearest likeness, fire.

 当時のサウインは「太陽の死」を祀る神聖な日であり、その日は邪悪な力に対して「死の生贄」が捧げられた。マイ・トゥリャの戦いで敗れたとはいえ、サウインの時期には邪悪な力が優勢となった。この時期には当然ながら、精霊の意志や未来を知るための術がより効果を発揮し、精霊たちがすぐ近くで力を貸してくれるから、呪文や祈祷もいっそうの力を帯びた。ただし、それには精霊を怒らせないよう細心の注意を払い、しかるべき敬意を払うことが不可欠であった。

  Samhain was then a day sacred to the death of the sun, on which had been paid a sacrifice of death to evil powers. Though overcome at Moytura evil was ascendant at Samhain. Methods of finding out the will of spirits and the future naturally worked better then, charms and invocations had more power, for the spirits were near to help, if care was taken not to anger them, and due honors paid.

第3章訳注

*3-1:火鑽
摩擦によって得た鑽火koukohaku.blogspot.com
*3-2:
Dindshenchas(ディンシェンチャス) は「地誌」「風土記」くらいの意味合いで、アイルランド各地の古伝を集める。Mag Slecht(Magh(マー) Slécht(スレクト)) は「ひれ伏しの原」の意で、クロム・クルアハの拝所をいう。マイヤー英訳になる引用元は見当たらないが、Edward Gwynn氏による散文訳(2005) (2010)が公開されているので、翻訳してみる。史料の乏しいアイルランド原神クロム・クルアハについては、これまで訳者も知るはその名のみ、サウインに関わりがあったのは知らなかった。その理解への一助となろう。

celt.ucc.ie

The Metrical Dindshenchas (Author: [unknown])
平伏(ひれふ)しの原 MAG SLECHT

嘗て此の地に高々と、偶像が立っていた。数多の戦い見守ってきた、その名はクロム・クルアハ。あらゆる部族が日々不穏。
ああ、その秘められた力よ!勇敢なゲール人が、かつて崇めた。過酷な世の中にあって分け前を得られるよう、彼等はこれに願いを乞い、奉献を欠かさなかった。
それが彼等の神、寄せ来る霧に閉ざされた、皺だらけのクロム・クルアハであった。この神を信じた者たちには、あらゆる安息の地を越えた永遠の王国など有り得ない。
不名誉にも彼等は、その神へ不運な長子を、甚だしい嘆きと危険を冒して屠り、その血をクロム・クルアハの周囲に注いだ。
彼等は子孫の1/3を見返りとして、乳と穀物を速やかに与えてくれるよう求めた。この神をめぐる恐怖と抗議の声は甚大であった。
この神に、輝かしきゲール人が平伏した。その信仰から、数多の罪から、そこは「平伏しの原」と呼ばれるに至った。
あるサウインの前夜、遠きタラの君主ティゲルンマスが、全軍を率いてこの地を訪れた。その行いが、彼らにとって悲しみの種となった。
彼等は邪悪を呼び起こし、手を打ち、身体を傷つけ、隷属せる悪魔に向かって嘆き叫び、地に伏して涙の雨を降らせた。
その男たちは死んだ、バンバの軍勢は正気を失った、北の地を貪るティルゲンマスもまた、クロム・クルアハ崇拝を通じて……運命の苛酷さよ!
私の知る限り、ゲール人のうち勘の良い1/4以外は一人も、罠から生き延びる、死の顎を免れることができなかった。
クロム・クルアハをめぐり、軍勢はひれ伏した。その事が致命的な恥辱を齎したとはいえ、その名はこの広大な平原に刻まれている。
石の偶像は三体ずつ四列に並べられ、軍勢を妄信に沈めるべく、クロムの姿は黄金で象られていた。
寛大なる首長エレモンの治世から、アル・マハの高貴なるパトリックの到来まで、この石像群に崇敬が払われてきたのである。
聖パトリックは槌もてクロムを、頭から爪先まで打ち砕き給う、並ならぬ武勇もて、ここに立てる無能の妖怪祓い給う。


クロム・クルアハの絵姿は後世の想像図しかないが、この記述から若干の特徴は読み取れる。

  • 石像
  • 金張り
  • しわくちゃ
  • 霧隠れ
  • 取り巻き12体
  • 生贄を求める
  • 願いを叶える

見た目は仏像かヒンズー神像に似ていたのではないか。バイラヴァとか。

生贄を求めるが故に悪魔扱いされているけれど、聖書の神も『創世記』ではノアの息子イサクを生贄に求め、ノアが仔羊にすり替えたから、元は似たような存在だったであろう。

また、このことについては、『パトリック伝三部作』THE TRIPARTITE LIFE OF PATRICK 第2部にも言及がある。

archive.org

 その後、パトリックは湖水を渡って Mag(マグ) Slecht(シュレクト)という場所へ向かった。そこはアイルランド主神の像、すなわち金と銀を貼った Cenn(ケン Cruaich(クルアッハ)と、その周囲に青銅張りの別の神像が12体、安置されていた場所であった。パトリックは水上からその神像を目にすると、「グート・アルド(「声を高く上げた」の意)」と叫び、神像に近づくと、イエスの杖を当てようと手を伸べたところが、像の正面(南側、すなわちタラの方角を向いていた)には届かず、その右側に杖が触れた。杖の跡は今も像の左側に残っているが、その際、杖がパトリックの手から離れることはなかった。また、他の12体の神像は、頭部を残して地面に飲み込まれてしまい、それらは奇跡の証として、今もそのままの姿で立っている。かくてパトリックは悪魔を呪い、地獄へ追放した。なおパトリックは、王ロイガレ(Loegaire)以下の面々を呼び集めていた。彼等はその神像を崇拝していた人々であったが、その正体、即ち悪魔の姿を目の当たりにし、パトリックが地獄へ追い払わなければ、自分たちが滅びてしまうのではないかと恐れおののいた。その後、偶像との戦いを繰り広げ、武勇を振るっていた最中、パトリックのマントからブローチが落ちてしまった。その場所でヒースを剥ぎ取り、ブローチを見つけた。以来、その場所では、野原の他の場所よりもヒースが茂っていない。

Thereafter Patrick went over the water to Mag Slecht, a place in which was the chief idol of Ireland, namely, Cenn Cruaich,*3-3 covered with gold and silver, and twelve other idols covered with brass about him. When Patrick saw the idol from the water named Guth-ard (i.e. he uplifted his voice), and when he drew nigh to the idol, he raised up his hand to put Jesu's staff upon it, and reached it not, but . . . its right side, for to the south was its face, namely, to Tara; and the mark of the staff still remains on its left side, and yet the staff did not move out of Patrick's hand. And the earth swallowed up the twelve other images as far as their heads, and they [still] stand thus in token of the miracle. And he cursed the demon, and expelled him into hell. And Patrick summoned all with king Loegaire. These are they who adored the idol, and all saw him, namely the demon, and they feared they would perish unless Patrick should cast him into hell. Then his brooch fell out of Patrick s mantle as he was . . . the conflict and the prowess against the idol. He stript off the heather in that place, and he found his brooch; and no heather-plant grows in that place more than in the rest of the field.

彼はその地に教会を立てた、號(なづ)けて「日曜定礎ひれ伏しの原」教会。そこに、彼の親族であり預言者でもあったマブラン[別名バルバラス・パトリキイ]を残した。また、そこにはパトリックの井戸があり、そこで多くの人々に洗礼を授けた。

He founded a church in that stead, namely Domnach Maige Slecht, and left therein Mabran [whose cognomen is] Barbaras Patricii, a relative of his and a prophet. And there is Patrick's well, wherein he baptized many.

*3-3:
Colgan has Crom-cruach, which is the Cromm Cruaich of the Dinnsenchas in the Book of Leinster, p. 213, col. 2.

第4章。ポーモーナ
CHAPTER IV POMONA

Pomona, Pomona (from Flora and Pomona)1906

After designs by Sir Edward Burne-Jones (English, 1833–1898) and John Henry Dearle (English, 1860–1932) Produced by Morris & Co., London (English, 1875-1940) Woven by Walter Taylor (English, 1875–1965) and John Keich (English, active 1890s–1910) Merton Abbey Tapestry Works, London (English, 1881–1940)

「私は古のリンゴの女王、
      今なお在りし日の如く。
  永遠に、見えざる希望、
      花と枝との間に宿る。

" I am the ancient apple-queen,
      As once I was so am I now —
  For evermore a hope unseen
      Betwixt the blossom and the bough.

「ああ、川に隠された黄金いずこに!
  風吹きすさぶトロイの墓は?
 されど来れり、来し方の如くに
  なおも夏を歓ぶ心から。」

 " Ah, Where's the river's hidden gold!
      And Where's the windy grave of Troy ?
  Yet come I as I came of old,
      From out the heart of summer's joy."

モリス MORRIS : Pomona. 

 オプスは、ローマ神話における豊穣の女神であった。彼女の司る領域の各部分は、他のさまざまな神々に引き継がれ、その中には女神ポーモーナ(pomorum patrona「果実を司る者」)も含まれていた。彼女は、腕に果実を抱え、手に剪定鋏を持った乙女として描かれている。

Ops*4-1 was the Latin goddess of plenty. Single parts of her province were taken over by various other divinities, among whom was Pomona*4-2 (pomorum patrona, " she who cares for fruits "). She is represented as a maiden with fruit in her arms and a pruning-knife in her hand. 

少なからぬローマの詩人が物語る中でも、特にオウィディウスのものが有名で、少なからぬ果樹園の神から求婚されながら、未婚に傾いたという。求婚者の中に、ウェルトゥムヌス(「変身能力者」の意)の姿もあった。季節の移ろい、交易のやり取り、川の流路の変更、そして何よりも花から熟した果実へと至る、自然の移ろいを司る神であった。その名の通り、彼はポモナの愛を得るために、さまざまな姿に変身した。ある時は耕作者(春)、ある時は漁師(夏)、またある時は刈り取り人(秋)となった。  遂には老婆(冬)に身を窶し、世間話をしに行った。彼女の心を探ってみると、結婚は望んでいないと解ったけれど、老女としてウェルトゥムヌスの願いが叶うよう、説得を試みた。

 Many Roman poets told storied about her, the best known being by Ovid, who says that she was wooed by many orchard-gods, but preferred to remain unmarried. Among her suitors was Vertumnus("the changer")*4-3, the god of the turning year, who had charge of the exchange of trade, the turning of river channels, and chiefly of the change in nature from flower to ripe fruit. True to his character he took many forms to gain Pomona's love. Now he was a ploughman (spring), now a fisherman (summer), now a reaper (autumn). At last he took the likeness of an old woman (winter), and went to gossip with Pomona. After sounding her mind and finding her averse to marriage, the woman pleaded for Vertumnus's success.

「彼こそは、あなたの大切な果実を最初に手にする方ではないかしら。そして喜びに満ちた右手に、あなたの初穂を携えているのではないかしら。」

 " Is not he the first to have the fruits which are thy delight? And does he not hold thy gifts in his joyous right hand ? "

オウィディウス『変身物語』第14巻 Ovid : Vertumnus and Pomona. 

それから老婆は、アナクサレテーの物語を語った。彼女が恋人のイピスに対して、あまりに冷淡であったため、イピスは首を吊って命を絶ってしまった。その葬列が通り過ぎるのを窓から見守ってていたアナクサレテーは、そのまま大理石の像へと変えられてしまったのである。そのような運命を避けるようポーモーナに諭すと、ウェルトゥムヌスは本来の姿である美青年に戻った。その物語と彼の美しさに心を動かされたポーモーナは、遂に心を許し、彼の妻となった。

 Then the crone told her the story of Anaxarete who was so cold to her lover Iphis that he hanged himself, and she at the window watching his funeral train pass by was changed to a marble statue. Advising Pomona to avoid such a fate, Vertumnus donned his proper form, that of a handsome young man, and Pomona, moved by the story and his beauty, yielded and became his wife.

 ローマのトスカーナ街道沿いには、ウェルトゥムヌスの彫像と神殿があった。彼を祀る祭典「ウォルトゥムナリア」は、夏も盛りを過ぎる8月23日に行われた。花輪や園芸作物が捧げられた。

 Vertumnus had a statue in the Tuscan*4-4 Way in Rome, and a temple. His festival, the Vortumnalia, was held on the 23d of August, when the summer began to wane. Garlands and garden produce were offered to him.

 ポーモーナには、特別な生贄の火を焚く役目のフラミナ(祭司)15人のうちの1人が割り当てられていた。オスティア近郊に彼女の聖なる森があり、そこでは11月1日頃に収穫祭が執り行われていた。この儀式の詳細は解っていないが、8月に行われていた類似の祝祭から、その内容をある程度推測できる。その祭事では、火と水の神々をなだめ、その不興によって作物が台無しにならないよう祈願していた。ポーモーナの祝祭においても、神々の収穫への助力に対して、感謝が捧げられたことは間違いないだろう。8月には初物が捧げられ、11月には冬用に貯蔵されたナッツやリンゴが出された。労働から解放された馬たちが競走することもあった。

 Pomona had been assigned one of the fifteen flamina*4-5, priests whose duty it was to kindle the fire for special sacrifices. She had a grove near Ostia*4-6 where a harvest festival was held about November first. Not much is known of the ceremonies, but from the similar August holiday much may be deduced. Then the deities of fire and water were propitiated that their disfavor might not ruin the crops. On Pomona's day doubtless thanks was rendered them for their aid to the harvest. An offering of first-fruits was made in August ; in November the winter store of nuts and apples was opened. The horses released from toil contended in races.

 ポモナの祭礼におけるナッツやリンゴ、そしてドルイドのサウインに由来する超自然的な要素、これらが合わさって後世の人々に、ハロウィーンで試されるナッツやリンゴを用いたまじないや占いをもたらすこととなった。

 From Pomona's festival nuts and apples, from the Druidic Samhain the supernatural element, combined to give later generations the charms and omens from nuts and apples which are made trial of at Hallowe'en.

第4章訳注
*4-1 Ops:
サートゥルヌスの妻、つまりギリシャ神話のレアと同一視されるローマの女神

ja.wikipedia.org

*4-2 Pomona
ポーモーナは、ローマ神話で豊穣を司る女神。長母音を略してポモナとも。ギリシャ神話に対応する神はない
*4-3 Vertumnus:
ウェルトゥムヌスは、ローマ神話で成熟を司る神。古くからエトルリア起源と考えられている。オウィディウスの記事により、Vertumnus and Pomona は永く人気の画題となった
*4-4
the Tuscan Way in Rome:
ローマ市内にあった通りの一つ、Vicus Tuscus。「エトルリア通り」とも

*4-5
the fifteen flamina:
フラメンflamen(複数形フラミネスflamines)は、古代ローマに於て特定の神に仕えた神官(サケルドス)。ローマの神官階級の中で最も古い階級の一つ。そのうち下級神官は平民もなれた。そのうち確実に名前が解っているのは10人のみという。
  1. The flamen Carmentalis
  2. The flamen Cerealis
  3. The flamen Falacer
  4. The flamen Floralis
  5. The flamen Furrinalis
  6. The flamen Palatualis
  7. The flamen Pomonalis
  8. The flamen Portunalis
  9. The flamen Volcanalis
  10. The flamen Volturnalis
  11. the flamen Fontinalis
  12. the flamen Larentialis
  13. the flamen Neptunalis, or the flamen Virbialis
それで著者が書いている「フラミナ15人」「特別な生贄の火」は根拠不明だが、The flamen Pomonalis が祭礼のお世話をしたのは事実らしい
*4-6 Ostia:
2世紀頃まで栄え、5世紀頃に廃棄されたローマの港湾都市

www.nttdata-luweave.com

【対訳】ロバート・バーンズ『ハロウィン。』HALLOWE'EN.(1785)

今週のお題「祭り」

Halloween の語源は、Allhallows Eve、つまり万聖節(古い英語で Allhallowmas )の前夜祭である。

www.frenchbloom.net

『悪の華』所収『秋の歌』で調べた通り、欧米の11月は「死者の月」であり、11月2日が死者を祀る万霊節。その前日、11月1日は聖人という聖人を祀る万聖節、その前夜が Halloween となる。

poetlabo.hatenablog.jp

ja.wikipedia.org

ja.wikipedia.org

en.wikipedia.org

残念ながら日本語版 Wikipedia はスコットランドの風習について全く触れず、参考にはならなかった。ハロウィンという祭事がまだイングランドには知られていなかった頃、スコットランドに行われた習俗として紹介した詩があると聞いて、読もうと思ったら、まだ邦訳されていなかった。ので、此処に翻訳する。底本に用いたWikisource にある The Beauties of Burn's Poems 出版は1819年、奇しくも『吸血鬼』と同年で、何か運命的なものを感じざるを得ない。


www.youtube.com

詩に歌われる内容は、複数の話を一つに繋げた感じで、詩に区切りはない。それで編集上、区切りがあるように見せたかったけれど、申し訳ないことに、よく解らなくなってしまった。だからといって止めはしないが。なお、挿入曲・挿入歌は内容とあまり関係ない。今年はブルーノ・ワルター生誕150年に当たる。

ja.wikipedia.org

翻訳の底本には Wikisource と Google books にある全集の影印本を使用したが、スコットランド方言混じりの古い英語は読み辛く、現代英語版を参考にした。現代英語版については無断転載禁止とされているので、転載はしない。

en.wikisource.org

play.google.com

www.eighteenthcenturypoetry.org

www.robertburnsfederation.com

入手できる電子書籍では1819年が最古かと思っていたらそうでもなく、Google books に POEMS CHIEFLY ON THE SCOTTISH DIALECT(1787) という本の影印があって、1787年4月4日付で署名された著者の献辞もある。

初出は1786年。Wikipedia でKilmarnock Editionとされているもの。

詩の内容は全集と同一のようだが、異なる点もある。

  • long s など古風な表記
  • 全節に番号あり

確認次第、修正の予定。


ハロウィン。
HALLOWE'EN.[1]

by Robert(ロバート) Burns(バーンズ)/萩原 學(訳

脚韻ABABCDCD+繰り返し


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[以下の詩は、多くの読者には十分に理解できるだろう。しかし、この情景の舞台となった地方の風俗や伝統に不案内な人のために、スコットランド西部の農奴階級には、予言として甚だ大きな意味を持つ、あの夜の主な魔法と呪文について説明する注釈を加えた。未来を詮索しようとする情熱は、古今東西を問わず、無骨な状態の人間性の歴史に顕著な部分を占めている。我々のより未啓発なところにその名残があるのを見るのは、哲学的な心を持つ者が著者に敬意を表し、そのような者が熟読するのであれば、ささやかな娯楽ともなり得よう。

The following Poem will, by many readers, be well enough understood; but for the sake of those who are unacquainted with the manners and traditions of the country where the scene is cast, notes are added, to give some account of the principal charms and spells of that night, so big with prophecy to the peasantry*1 in the west of Scotland. The passion of prying into futurity makes a striking part of the history of human nature, in its rude state, in all ages and nations; and it may be some entertainment to a philosophic mind, if any such should honour the Author with a perusal, to see the remains of it, among the more unenlightened in our own.]

R. B.

金持ちは嘲笑、傲慢な者は軽蔑しよう、
下々の者の、ひたすら純朴なる享楽を。
私にとっては、より愛おしく、より心に響くもの、
生まれながらの魅力、いかなる芸術の輝きよりも。

Yes! let the rich deride, the proud disdain,
The simple pleasures of the lowly train;
To me more dear, congenial to my heart,
One native charm, than all the gloss of art.

――ゴールドスミス。Goldsmith.


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I.

その夜には、妖精たちも光る、
  ふわふわ踊るカシリスの丘に、
あるいは牧草地を華麗に照らす、
  さっそうと駈ける駿馬の上に。
あるいは、コリーンに向かって奔走する、
  青白い月の光の下で。
そこで、洞窟を遡り
  岩や小川の間を彷徨い歩き
         その夜を遊ぶ。

Upon that night, when Fairies light,
    On Cassilis-Downans[2] dance,
Or owre the lays, in splendid blaze,
    On sprightly coursers prance;
Or from Colean the rowte is ta'en,
    Beneath the moon's pale beams:
There, up the Cove[3], to stray and rove,
    Amang the rocks and streams,
                            To sport that night.


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II.

風光明媚、曲がりくねった土手、
  そこにさらさらドゥーン川、
かつてブルース、武門を統べて
  キャリック家の槍を振るった、
日頃から陽気で親しい
  田舎の連中が参集、
木の実を燃やし、草を抜き
  ハロウィンを祝う
      賑わいの、その夜。

Amang the bonie, winding banks,
    Where Doon rins, wimplin, clear,
Where Bruce[4] ance rul'd the martial ranks,
    An' shook his Carrick spear,
Some merry, friendly, countra folks,
    Together did convene,
To burn their nits, an' pou their stocks,
    An' haud their Halloween
                        Fu' blythe that night.


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III.

女の子たちは溌剌として清楚
  綺麗というより愛らしい、
甘美に輝く顔に出るその心
  誠実で温かく優しい。
男の子たちはきりり端正に恋結び
  ガーターにきちんと結んで
恥ずかしがり屋も居れば、おしゃべり好きも居り、
  女心をときめかせ
    時々ドキドキの、その夜。

The lasses feat, an' cleanly neat,
    Mair braw than when they're fine;
Their faces blythe, fu' sweetly kythe,
    Hearts leal, an' warm, an' kin:
The lads sae trig, wi' wooer-babs,
    Weel knotted on their garten,
Some unco blate, an' some wi' gabs,
    Gar lasses' hearts gang startin
                        Whyles fast at night.

IV.

そしてケール引き、何よりもまず、
  探さなければならない、皆一斉に一株を。
みんな目を閉じ、手探りで選ぶ。
  どうか大きなもの、まっすぐなものを。
哀れ、お馬鹿ウィルは道に迷った、
  ケール畑の中をさまよい
選ぶあてもなく引き抜いた
  雌豚の尻尾のような茎、
        甚だ項垂れた夜。

Then, first an' foremost, thro' the kail,
    Their stocks[5] maun a' be sought ance:
They steek their een, an' grape an' wale,
    For muckle anes, an' straught anes.
Poor hav'rel Will fell aff the drift,
    An' wander'd thro' the Bow-kail,
An' pou't, for want o' better shift,
    A runt was like a sow-tail,
                            Sae bow't that night.


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V.

まっすぐでも、曲がっていても、土があってもなくても、
  一緒に吠えて泣き喚いて。
よちよち歩きの子供たちまでも
  茎を肩にして駆けつけて。
皮が甘いか酸っぱいか、
  懐刀で味見する
こっそりと扉の上にか
  慎重に潜ませる
     過ごそうと、その夜を。

Then, straught or crooked, yird or nane,
    They roar an' cry a' throu'ther;
The vera wee things, toddlin, rin,
    Wi' stocks out-owre their shouther;
An' gif the custock's sweet or sour,
    Wi' joctelegs they taste them;
Syne coziely, aboon the door,
    Wi' cannie care, they've plac'd them
                        To lie that night.


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VI.

娘たちは皆の中からくすねに行った、
  穀物の茎を抜くために、
しかしロバートは抜け出し、身をかわす、
  大きなイバラの後ろに
ネリーを激しく素早く掴んだ
  女の子たちは皆、大きな悲鳴
しかし彼女のタップピックルはほぼ無くなった、
  ファウズハウスの中で寄り添っていたとき
      彼と一緒に、その夜。

The lasses staw frae' mang them a'
    To pou their stalks o' corn;[6]
But Rab slips out, an' jinks about,
    Behint the muckle thorn:
He grippet Nelly hard an' fast;
    Loud skirl'd a' the lasses;
But her tap-pickle maist was lost,
    When kiutlin i' the fause-house[7]
                        Wi' him that night.


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VII.

老夫人の蓄えていたどんぐりが
  その場ぐるりに分けられる
多くの若い男女の運命が
  その夜、そこで決まる。
あるものは仲良く焔を上げる、肩を並べて
  共に穏やかに燃えるものもある
あるものはパチンと逃げ出す、高慢を以て
  次いでに暖炉の上を飛び越える
        高々と、その夜。

The auld guidwife's weel-hoordet nits[8]
    Are round an' round divided,
An' monie lads' and lasses' fates
    Are there that night decided.
Some kindle, couthie, side by side,
    An' burn thegither trimly;
Some start awa, wi' saucy pride,
    An' jump out-owre the chimlie
                        Fu' high that night.

VIII.

ジーンは用心深く、二手に分かれて滑り込み
  相手が誰なのか、彼女は言おうとしなかった
でもこれはジョック、そしてこれは私、
  彼女は独り言のように呟いた
彼は彼女に燃え上がり、彼女は彼に燃え上がった、
  もう決して別れることはあるまい…
パシュッ! と、彼が煙を出すまでは。
  そしてジーンはそれを見てしまい
      心を痛めた、その夜。

Jean slips in twa, wi' tentie e'e;
    Wha 'twas, she wadna tell;
But this is Jock, and this is me,
    She says in to hersel:
He bleez'd owre her, an' she owre him,
    As they wad never mair part;
Till fuff! he started up the lum,
    An' Jean had e'en a sair heart
                        To see't that night.

IX.

哀れなウィリー、撓(たわ)んだケール、
  気取ったモリーと一緒に焼かれた、
メアリーの方(ほう)は論外、鼻で笑う
  ウィリーと列(なら)べられてしまっては。
モールの実が得意げに飛び出したはいいが、
  自分の足が燃えてしまい。
ウィリーは飛び上がり、神かけて誓った、
  それこそ将に我が望み、
     斯く在れと、その夜。

Poor Willie*2, wi' his bow-kail runt*3,
    Was brunt wi' primsie Mallie*4,
An' Mary*5, nae doubt, took the drunt,
    To be compar'd to Willie:
Mall's nit lap out, wi' pridefu' fling,
    An' her ain fit it brunt it;
While Willie lap, an' swoor by jing*6,
    'Twas just the way he wanted
                        To be that night.

X.

ネルは穀物の茎に空いた穴を思い浮かべ、
  自分とロブをそこに入れる
愛の炎の中で、二人は甘く結ばれ、
  白い灰になるまで、二人して咽び泣く
ネルはその景色に心を踊らせた
  彼女はロブにそれを見つめるようにささやいた
ロブはこっそりと、彼女の美しい口を味わった、 
  それで隅っこでゆったりしていた、
    見られていない、その夜。

Nell had the fause-house in her min',
    She pits hersel an' Rob in;
In loving bleeze they sweetly join,
    Till white in ase they're sobbin:
Nell's heart was dancin at the view;
    She whisper'd Rob to leuk for't:
Rob, stownlins, prie'd her bonnie mou,
    Fu' cozie in the neuk for't,
                        Unseen that night.

XI.

しかし、マリアンは2人の後ろに座っていて、
  アンドリュー・ベルのことを考えていた
2人が話し込んでいるのを放っておいて
 そっと一人で抜け出した
一番近い庭を通って、
  そして窯に向かった、
そして暗闇の中で格子の横木をつかんで、
  そして青い糸を投げた、
       恐るべし、その夜。

But Merran sat behint their backs,
    Her thoughts on Andrew Bell;
She lea'es them gashin at their cracks,
    An' slips out by hersel:
She thro' the yard the nearest taks,
    An' to the kiln she goes then,
An' darklins grapit for the bauks,
    And in the blue-clue[9] throws them,
                        Right fear't that night.

XII.

彼女はいつもそれを巻いて、いつも汗をかいて...
  ささいなことでは動じなかった、
窯の中に何かが詰まるまでは、
  なんてことだ!彼女は震え上がった!
しかし、それが悪魔だったのか、
  それとも横木の先か
それともアンドリュー・ベルなのか、
  彼女は躊躇いもせず
        問うた、その夜。

An' aye she win't, an' ay she swat,
    I wat she made nae jaukin;
Till something held within the pat,
    Guid Lord! but she was quaukin!
But whether 'twas the Deil himsel,
    Or whether 'twas a bauk-en',
Or whether it was Andrew Bell,
    She did na wait on talkin
                        To spier that night.


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XIII.

小さなジェニーが祖母に尋ねる、
「おばあちゃん、一緒に来て?
  今から鏡の前でリンゴを食べる、
 ジョニーおじさんから貰って」
パイプをくわえて煙を吐いて、
  彼女は怒りに燃えていた、
焦げつくのも目に入らなくて。
  美しい、新しい、梳毛のエプロンが
        ずっと、その夜。

Wee Jenny to her Graunie says,
    'Will ye go wi' me, Graunie?
I'll eat the apple[10] at the glass,
    'I gat frae uncle Johnie:'
She fuff't her pipe wi' sic a lunt,
    In wrath she was sae vap'rin,
She notic't na, an aizle brunt,
    Her braw new worset apron
                        Out thro' that night.

XIV.

「何じゃと、このマセ餓鬼があ!
  そんなの遊びでやってみろ、
 悪魔に見つかるのがオチぢゃ。
  見て貰うか、お前の運勢でも
 間違いなく、見る羽目になろう!
  恐れる理由は大ありだ
 多くの者は怖じ怯えよう
  死ぬも生きるも錯乱したまま、
        夜が来る度に。」

'Ye little Skelpie-limmer's face!
    'I daur you try sic sportin,
'As seek the foul Thief ony place,
    'For him to spae your fortune?
'Nae doubt but ye may get a sight!
    'Great cause ye hae to fear it;
'For monie a ane has gotten a fright,
    'An liv'd an' di'd deleeret,
                            On sic a night.

XV.

「シェリフミュア前で収穫の日のこと、
  昨夜のようによく思い出せる……
 そのときの私はまだ少女で、確か
  15歳にもなっていなかった
 その夏は寒くて雨ばかり、
  穀物はまだ青いばかり;
 そしていつもは賑やかな収穫の家、
  そしてちょうどハロウィーンの日
        雨降りの夜。」

'Ae Hairst afore the Sherra-moor,
    'I mind't as weel's yestreen,
'I was a gilpey then, I'm sure
    'I was na past fyfteen:
'The simmer had been cauld and wat,
    'An' stuff was unco' green;
'An' ay a rantin kirn we gat,
    'An' just on Halloween
                        'It fell that night.

XVI.

「我々の収穫長はラブ・マグレインといい、
  それは利口で頑丈なものだった
 その息子はエピー・シムを孕ませてしまい、
  アハマチャラに住んでいた
 私はよく覚えている、彼は麻の実を手に入れて、
  なのに彼が、軽んじるのは異常
 それにしては、何日も一人で
  ひどく動顛していたのだけど
         あの真実の夜。」

'Our stibble-rig was Rab M'Graen,
    'A clever, sturdy fallow;
'His sin gat Eppie Sim wi' wean,
    'That liv'd in Achmacalla;
'He gat hemp-seed,[11] I mind it weel,
    'An' he made unco light o't;
'But monie a day was by himsel,
    'He was sae sairly frighted
                        'That vera night.'

XVII.

すると争う羽目に、ジェームズ・フレックと
  曰く、良心に誓っていうが
1ペック*7の麻の実を蒔けると
  戯言に過ぎなかったが
年老いた家主は袋に手を伸べ、
  彼に与えた一握り
そして皆の中から抜け出させ、
  誰も見ていない時、
     試してみよと、その夜。

Then up gat fechtin Jamie Fleck,
    An' he swoor by his conscience,
That he could saw hemp-seed a peck;
    For it was a' but nonsense:
The auld guidman raught down the pock,
    An' out a handfu' gied him;
Syne bad him slip frae 'mang the folk,
    Sometime when nae ane see'd him,
                        An' try't that night.

XVIII.

積み藁の立つ中を行進する、
  どこかふらふらよろめきつつ
鍬(すき)の代わりにフォークを取る
  その鞦(はし)を引きずりつつ
先程も今もずっとブツブツと、
 「麻の実よ、お前を蒔いた、
 僕の彼女になるべき人
  ついてきて、さあ引いた。
     お出でませ、この夜。」

He marches thro' amang the stacks,
    Tho' he was something sturtin;
The graip he for a harrow taks,
    An' haurls at his curpin:
An' ev'ry now an' then, he says,
    'Hemp-seed, I saw thee,
'An' her that is to be my lass,
    'Come after me an' draw thee
                        As fast this night.'

XIX.


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レノックス卿の行進曲を口笛で吹いた
  陽気に勇気を奮い立たせようと、
髪の毛も弓なりに逆立つほどには
  あまりの怖さに腰も引けたけれど、
何やら軋む音が聞こえるや
  続いて来るのは唸りや呻き、
肩越しにバッと振り返るや
  それ宙返り、次いで前回り
      飛び出した、その夜。

He whistl'd up Lord Lenox' march,
    To keep his courage cheary;
Altho' his hair began to arch,
    He was sae fley'd an' eerie:
Till presently he hears a squeak,
    An' then a grane an' gruntle;
He by his shouther gae a keek,
    An' tumbl'd wi' a wintle
                        Out-owre that night.

XX.

死ぬほど恐ろしい叫びを上げて、
  彼は恐ろしい絶望に落ちた
老いも若きも駆け出してきて、
  彼の悲痛な語りを聞いた
断言、それは足を引きずるジーン・マクロー、
  あるいはせむしのマリアン・ハンフィーだったと。
待て、止まれ!彼女は誰にも捕まらず。
  つらつら思うに、豚以外の何者でもあるまいよ
    動いていたのは、その夜!

He roar'd a horrid murder shout,
    In dreadfu' desperation!
An' young an' auld come rinnin out,
    An' hear the sad narration:
He swoor 'twas hilchin Jean M'Craw,
    Or crouchie Merran Humphie,
Till stop! she trotted thro' them a';
    An' wha was it but Grumphie
                        Asteer that night!


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XXI.

メグはどうしても納屋へ行きたい、
  空っぽの箕を3度もふるう真似をしようと
それも一人で、悪魔と遭遇するのに、
  大して信じている訳でもないけど
羊飼いには木の実を2、3個ばかり、
  それと、赤いほっぺのリンゴを二つと
納屋へ行くとこ、見ててください
  願うはタム・キップルに会いたいと
       まさに、その夜。

Meg fain wad to the barn gaen
    To winn three wechts o' naething;[12]
But for to meet the Deil her lane,
    She pat but little faith in:
She gies the Herd a pickle nits,
    And twa red-cheekit apples,
To watch, while for the barn she sets,
    In hopes to see Tam Kipples
                        That vera night.

XXII.

彼女は慎重に鍵を回し、
  敷居をまたいで踏み入れる。
だが、まずはソーニーの名を呼び、
  それからぐいと中へと入る。
その時、ネズミがガサガサ壁を伝い、
  主よ、ご加護を!と叫ぶ。
堆肥の山やら溝やら駆け抜けていき、
  熱意と情熱を以て祈りつつ
      全速で、その夜。

She turns the key, wi' cannie thraw,
    An' owre the threshold ventures,
But first on Sawnie*8 gies a ca',
    Syne bauldly in she enters;
A ratton rattl'd up the wa',
    An' she cry'd, Lord preserve her!
An' ran thro' midden-hole an' a',
    An' pray'd wi' zeal an' fervour,
                        Fu' fast that night.

XXIII.

痛烈な忠告と共に、ウィルは追い出された、
  素敵な相手をあてがうと約束されて。
たまたま三度も探り当てたその山は、
  積み上げられた薪に過ぎなくて。
ねじれた古びた苔むす樫の木、
  黒く恐ろしい老婆と思い込んで、
呪いの言葉を吐きながら殴りかかり、
  皮膚が裂けて飛び散るまで、
      拳から、その夜。

They hoy't out Will, wi' sair advice;
    They hecht him some fine braw ane;
It chanc'd the stack he faddom't thrice[13]
    Was timmer-propt for thrawin:
He taks a swirlie, auld moss-oak,
    For some black, grousome Carlin;
An' loot a winze, an' drew a stroke,
    Till skin in blypes cam haurlin
                        Aff's nieves that night.


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XXIV.

奔放な未亡人リージーは、
  子猫のように快活だった。
だが、ああ!あの夜、森の中で、
  恐ろしい目に遭うことになった!
ハリエニシダを抜け、石塚のそばを通り、
  丘を越えて彼女は急ぎ駆けていった。
領主三人の領地が小川で接するその場所へ、
  左のシャツの袖を浸すべく、
      向かう、その夜。

A wanton widow Leezie was,
    As cantie as a kittlin;
But Och! that night, amang the shaws,
    She gat a fearfu' settlin!
She thro' the whins, an' by the cairn,
    An' owre the hill gaed scrievin,
Whare three lairds' lands met at a burn,[14]
    To dip her left sark-sleeve in,
                        Was bent that night.

XXV.

今や滝壺には雲霧が戯れ、
  渓谷を縫って小川は流れ。
時にはゴツゴツした崖を周って、
  時には渦を巻いてさざめいて。
時には夜の光にきらめき、
  せせらぎ、踊り、眩い輝きを放ち。
時には身を隠し、丘の斜面の下に、
  ハシバミの木々広がる陰に、
      人目避け、その夜。

Whyles owre a linn the burnie plays,
    As thro' the glen it wimpl't;
Whyles round a rocky scar it strays;
    Whyles in a wiel it dimpl't;
Whyles glitter'd to the nightly rays,
    Wi' bickering, dancing dazzle;
Whyles cookit underneath the braes,
    Below the spreading hazel,
                        Unseen that night.

XXVI.

シダが生い茂る丘の中腹で、
  その彼女と月との間に、
悪魔か、野原にいる若い雌牛か、
  何か立ち上がり、唸りを上げて。
哀れリージー、心臓も胸から飛び出さんばかり。
  ヒバリ舞うほどの高さまで跳び上がった、
は良いが踏み外し、池の中へと
  あろうことか耳までドボンと
      嵌ったその夜。

Amang the brachens on the brae,
    Between her an' the moon,
The Deil, or else an' outler Quey,
    Gat up an' gae a croon:
Poor Leezie's heart maist lap the hool;
    Near lav'rock height she jumpit,
But mist a fit, an' in the pool
    Out-owre the lugs she plumpit,
                        Wi'a plunge that night.


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XXVII.

清められた暖炉石に1列に、
  列べられた小さな木の鉢が3つ。
そして毎回、細心の注意を払い
  適切に入れ替えたか確認される。
老いたジョン伯父、マーの年以来
  結婚の喜びを切望していたが、
三度も空の器を引いてしまい、
  火の中に全部放り込んだ。
     怒りに任せて、その夜。

In order, on the clean hearth-stane,
    The luggies three[15] are ranged;
And ev'ry time great care is taen,
    To see them duly changed:
Auld uncle John, wha wedlock's joys
    Sin' Mar's-year did desire,
Because he gat the toom dish thrice,
    He heav'd them on the fire
                        In wrath that night.

XXVIII.

陽気な歌に親しい語らい、
  退屈する暇もあるまい。
愉快な冗談、不思議な物語……
  質素で素朴、皆が楽しみ。
バターソーンの湯気香ばしく、
  回るよ回る、いよいよ舌も滑らかに。
酒を酌み交わし親睦を深めて最後に、
  皆別れて走り去っていき
     ごく上機嫌に、その夜。

Wi' merry sangs, an' friendly cracks,
    I wat they did na weary;
And unco tales, an' funnie jokes,
    Their sports were cheap and cheary;
    Till butt'rd So'ns,[16] wi' fragrant lunt,
    Set a' their gabs a-steerin;
Syne, wi' a social glass o' strunt,
    They parted aff careerin
                        Fu' blythe that night.


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原註

[1].

ハロウィンは、魔女や悪魔、その他の災いを齎す存在たちが、真夜中の邪悪な用事で戸外に出没する夜だと考えられている。特に、妖精たちは、その夜に盛大な記念祭を開くと言われている。

Halloween is thought to be a night when witches, devils, and other mischief-making beings are all abroad on their baneful, midnight errands; particularly those aërial people, the fairies, are said, on that night, to hold a grand anniversary.*9

R. B.
[2].

カシリス伯爵家代々の居城の近くにある、ロマンチックで岩だらけの緑豊かな小さな丘。

Certain little, romantic, rocky, green hills, in the neighbourhood of the ancient seat of the Earls of Cassilis.*10

R. B.
[3]

コリーン家の近くにある有名な洞窟で、コリーンの洞窟と呼ばれている。カシリスの丘と同様、妖精たちお気に入りの隠れ家として知られる。

A noted cavern near Colean-house, called the Cove of Colean*11; which, as well as Cassilis Downans, is famed in country story for being a favourite haunt of fairies.

[4]

その名を以て知られる、祖国を救った偉大なるロバートを開祖とする一族が、キャリック伯爵家であった。

The famous family of that name, the ancestors of Robert*12, the great deliverer of his country, were Earls of Carrick. R. B.

[5]

ハロウィンの最初の儀式は、ケールを1玉ずつ抜く。 二人で手をつないで外に出て、目を閉じて、最初に触れたものを引かなければならない。 その株が大きいか小さいか、まっすぐか曲がっているかは、彼らの呪文の大本である夫や妻の体格や姿形を予言している。 もし根元に土(イード)が付着していれば、それは幸運(トーチャー)である。カストック、つまり茎の中心の味は、生まれつきの気質や性質を示している。 最後に、茎、つまり通常の呼び名で言うところのラントが、扉より上のどこかに置かれる。そしてたまたま、家に招き入れる人々の洗礼名が、ラントを置く優先順位に従って、知りたいことの答えとなる。

The first ceremony of Halloween is, pulling each a stock, or plant of kail. They must go out, hand in hand, with eyes shut, and pull the first they meet with. Its being big or little, straight or crooked, is prophetic of the size and shape of the grand object of all their spells the husband or wife. If any yird, or earth, stick to the root, that is tocher, or fortune; and the taste of the custoc, that is, the heart of the stem, is indicative of the natural temper and disposition. Lastly, the stems, or, to give them their ordinary appellation, the runts, are placed somewhere above the head of the door; and the christian names of the people whom chance brings into the house, are, according to the priority of placing the runts, the names in question. R. B.

[6]

二人で納屋に行き、燕麦の穂を3本ずつ数回に分けて引く。もし3本目の麦の穂がタップ・ピックル、つまり麦の穂先にある実を欠いていたら、引き当てた者たちには、女中以外は誰ひとり、新婚初夜の寝床に来ることはない。

They go to the barn-yard, and pull each, at three several times, a stalk of oats*13. If the third stalk wants the tap-pickle, that is, the grain at the top of the stalk, the party in question will come to the marriage-bed any thing but a maid.

R. B.
[7]

穀物が青すぎたり、湿っていたりと、思わしくない状態にあるとき、積み上げ職人は、古い木材などを使って、堆積の中に空洞を作り、風がよく当たる側に開口部を設ける。これをファウズハウスと呼ぶ。

When the corn is in a doubtful state, by being too green, or wet, the stack-builder*14, by means of old timber, etc., makes a large apartment in his stack, with an opening in the side which is fairest exposed to the wind: this he calls a Fause-house*15.

R. B.
[8]

木の実を燃やすのは、よくあるおまじない。二人で木の実を火にくべるとき、木の実それぞれに男女の名前をつける。そして、その木の実が一緒に静かに燃える、あるいは互いにそっぽを向いて燃え始める有様から、求愛の経過と結果がわかる。

Burning the nuts is a famous charm. They name the lad and the lass to each particular nut, as they lay them in the fire; and accordingly as they burn quietly together, or start from beside one another, the course and issue of the courtship will be. R. B.

[9]

この呪文を試して成功したい者は、次の手順を厳守しなければならない。一人で窯に忍び込み、暗い気持ちで青い糸の糸口を窯に投げ入れる。古い糸から新しい糸を巻き取る。そして、後半になると、何かが糸を止める。そこで問え、止めるのは誰だ?と。あなたの将来の伴侶の洗礼名と姓を挙げれば、窯から答えが返ってくるだろう。

Whoever would, with success, try this spell, must strictly observe these directions: Steal out, all alone, to the kiln, and, darkling, throw into the pot a clue of blue yarn: wind it in a new clue off the old one: and, towards the latter end, something will hold the thread; demand, Wha hands? i.e., who holds? an answer will be returned from the kiln-pot, by naming the christian and surname of your future spouse. R. B.

[10]

ロウソクを手に、ひとりで姿見のところに行き、その前でリンゴを食す。髪をずっと梳かしておくと良いともいう。あなたの肩越しに覗いている、結婚相手の顔が鏡に映るだろう。

Take a candle, and go alone to a looking-glass; eat an apple before it, and some traditions say, you should comb your hair all the time; the face of your conjugal companion, to be, will be seen in the glass, as if peeping over your shoulder. R. B.

[11]

気づかれないように抜け出し、一握りの麻の実をまく。周りから引っ張ってこれるものなら何でも使って痛めつける。時々、繰り返し言う、「麻の実よ、見ているぞ麻の実よ。そして、わが真実の愛となるべき彼(または彼女)よ、私の後に来て、姿を見せて。」左肩ごしに振り返れば、麻を引く姿勢で呼び出された人の姿が見えるだろう。
 「私の後に来て、汝を見せよ」と言う遣り方もある。この場合、それは単に現れるだけである。また、麻を叩くことを省略して、「私の後に来て、汝を苅れ」と言う伝承もある。

Steal out unperceived, and sow a handful of hemp-seed: harrowing it with any thing you can conveniently draw after you. Repeat now and then, 'Hemp-seed, I saw thee, hemp-seed, I saw thee; and him (or her) that is to be my true-love, come after me and pou thee.' Look over your left shoulder, and you will see the appearance of the person invoked, in the attitude of pulling hemp. Some traditions say, 'come after me, and shaw thee,' that is, show thyself: in which case it simply appears. Others omit the harrowing, and say, 'come after me, and harrow thee.' R. B.*16

[12]

このおまじないも同様に、気づかれずに一人で行わなければならない。納屋に行き、両方の扉を開け、可能であれば蝶番を外しておく。今にも現れようとする者が扉を閉め、あなたに災いをもたらす恐れがあるからだ。それから、穀物の吹き分けに使う道具、わが故郷の方言でウェヒト(箕の一種)と呼ぶものを手に取り、風に当てて穀物を吹き分ける所作をすべて行う。それを3回繰り返すと、3回目には幻影が納屋を通り抜け、風の吹く扉から入って、もう一方の扉から出てくる。

This charm must likewise be performed unperceived, and alone. You go to the barn, and open both doors, taking them off the hinges, if possible; for there is danger, that the being, about to appear, may shut the doors, and do you some mischief. Then take that instrument used in winnowing the corn, which, in our country dialect, we call a wecht; and go through all the attitudes of letting down corn against the wind. Repeat it three times; and the third time an apparition will pass through the barn, in at the windy door, and out at the other, having both the figure in question, and the appearance or retinue, marking the employment or station in life. R. B.

[13]

人知れず熊の山に行き、3周してみよう。 最後の1回で将来の夫婦となる仲間の姿を腕の中にとらえるだろう。

Take an opportunity of going, unnoticed, to a Bear-stack, and fathom it three times round. The last fathom of the last time, you will catch in your arms the appearance of your future conjugal yoke-fellow. R. B.

[14]

一人または複数で(これは社交的な呪文であるため)、「3つの領主の土地が交わる」南を流れる泉や小川に出かけ、左のシャツの袖を浸す。火が見えるところで床に入り、濡れた袖を火の前に干して乾かす。眠らず横になっていると、真夜中近くになって、取り上げた対象そのものの姿をした幻影が来て、袖の反対側を乾燥させるかのように、袖を回す。

You go out, one or more (for this is a social spell), to a south running spring or rivulet, where 'three lairds' lands meet,' and dip your left shirt sleeve. Go to bed in sight of a fire, and hang your wet sleeve before it to dry. Lie awake; and some time near midnight, an apparition, having the exact figure of the grand object in question, will come and turn the sleeve, as if to dry the other side of it. R. B.

[15]

皿を3枚用意し、1枚目にはきれいな水を、2枚目には汚れた水を入れ、3つ目は空にしておく。人に目隠しをし、食器が並べられた囲炉裏に案内する。その人は左手を浸す。もしきれいな水に入れていれば、未来の配偶者(の女中)が結婚の門を叩くだろう。汚れた水なら、未亡人となる。空の皿なら、同じように確実に、結婚しないとの予言。これを3回繰り返し、その都度、皿の配置を変える。

Take three dishes; put clean water in one, foul water in another, leave the third empty: blindfold a person, and lead him to the hearth where the dishes are ranged; he (or she) dips the left hand: if by chance in the clean water, the future husband or wife will come to the bar of matrimony, a maid: if in the foul, a widow: if in the empty dish, it foretells, with equal certainty, no marriage at all. It is repeated three times; and every time the arrangement of the dishes is altered. R. B.

[16]

牛乳の代わりにバターを入れたソーエンは、ハロウィーンの夕食に欠かせない。

Sowens*17, with butter instead of milk to them*18, is always the Halloween Supper. R. B.

訳注

スコットランド方言のみならず、スコットランド独自の、おそらく今は伝わらない風習を含み、書いてあることの理解は容易ではない。解説しているwebサイトはあった。参考にしたけれど、書いてあることの全て理解できたとも思えない。

www.scotlandshop.com

現代のハロウィンと比較すると、「ハロウィン」と認識される記号が全面的に入れ替わっている。ハロウィン解説の一例として、Soogle Magazine に

ハロウィンといえば、カボチャのランタン、魔女、幽霊、仮装、お菓子。

ok-soogle.com

とあるのが典型的な「ハロウィン」の記号であるのに対し、ロバート・バーンズのこのバラッドではそのほとんどを欠き、恋占いに終始する。「ハロウィン」というより「恋占いの夜」と言ってもいいほどだ。そのことは、この特集でも指摘されている。

ok-soogle.com

*1:peasant は概して「農民」と訳されるが、farmer ではない。farm を所有する farmer は自作農だったり農場主だったりするのに対し、peasant は土地など持たない「小作」「水呑」「農奴」というに近い

*2:Willie は Will の愛称、上に出てきた「哀れなウィル」

*3:sow-tail な runt だったのを微妙に言い換える

*4:Mary の愛称

*5:聖母の名でもある

*6:スコットランドに於て、驚きを表す間投詞として使われ、どうやら Jesus のことらしいthequiltquine.wordpress.com

*7:10リットル

*8:「アレクサンダー」の通称en.wikipedia.org

*9:ゲーテ『コリントの花嫁』では「真夜中」という代わりに「魔女の時間」と称する。poetlabo.hatenablog.jp アペル『魔弾の射手』でも、魔弾を鋳造できるのは聖夜の23時から真夜中までとされている。poetlabo.hatenablog.jp
「妖精」fairies は後年のディズニー映画が描くような愛らしい存在ではなく、クローカー『妖精伝』に見るような、妖怪とかお化けとかに近い人外。

*10:Cassillis and Its Dule-Tree という版画の紹介として、次のようにある。キャシリス・ダウナンズ(Cassillis Downans)は、城の南約1/4マイル(約400メートル)、メイボールとダルリンプルを結ぶ道路の近くに盛り上がる、3つか4つの小さな丘です。その中で最も大きく、屋敷に一番近い丘は、ドゥーン川の水面から300フィート(約90メートル)ほどの高さがあるように見えます。2番目の丘はやや低く、他の1つ2つは人目につきません。丘は緑の芝生に覆われつつも、所々で岩肌が露出しており、そのためバーンズは注釈でこれらを「岩だらけの(rocky)」丘と表現しています。最も高い丘の頂上には円形の土塁があり、その西側には通路の出入り口と思しき切れ目があります。ここが初期の砦であった可能性は高く、特に丘の中腹にある農場が「ダンリー(Dunree)」という……明らかに「ダン・リー(Dun-righ)」、すなわち「王の城」を意味する……名を冠していることは、その説を裏付けています。こうした小高い丘の独特な形状や、平坦な土地の真ん中に忽然とそびえ立つという状況は、教育を受ける機会のなかった当時の人々の心に、迷信的な想像をかき立てずにはおかないものだったでしょう。そのため、バーンズの時代に至るまで、これらは妖精の仕業であり、真夜中の宴が繰り広げられる特別な場所だと信じられていました。実際には、これらはトラップ(粗粒玄武岩などの火成岩)の塊であり、うち一つは今なお、近隣の道路の補修にぴったりの「資材」(砕石)を供給しています。バーンズは、父親がオリファント山に住んでいた頃、ダルリンプルの学校へ通っていたことがあるので、この版画に描かれた風景は彼にとって馴染み深いものだったに違いありません。www.maybole.org

*11:Culzean Caves と今では呼ばれる洞窟が、カルジーン城裏に隠されるようにあるという。 scotlands-stories.com

*12:スコットランド王ロバート1世となったロバート・ブルース。スコットランド人たるロバート・バーンズにとっては、特別な存在であったのか。キャリック伯は、ロバート・ブルースが母方から相続した爵位

*13:詩句にある corn はトウモロコシではなく、(粒々の)穀物を意味する。スコットランドで栽培される穀物は麦、それも7割方は大麦 Barley なので、詩人の説明が燕麦 Oats なのは普通ではないのだが、今のところ理由不明。tap-pickle 即ち穂先の麦粒は、最も品質の良いものとされる。なお、燕麦をカラス麦と呼ぶこともあり、同属ではあるものの、栽培品種の燕麦は野生種のカラス麦そのものではない。

*14:この名で呼ばれる麦藁積み上げの専門職が嘗て存在したという

*15:fause は、スコットランド方言で false を意味する。敢えて訳すと「偽家」「虚宅」となろうか。換気のために設けた空気穴なのに、隠れ家代わりに入り込まれては、農家はいい迷惑という他はない。画像は見つからない

*16:harrow は名詞「鋤」であり、動詞「耕す」「掻き乱す/痛めつける」でもある。それで harrowing は「痛ましい/悲惨な/ぞっとする」という形容になる。ここでは撒いた麻の実を「ぶっ叩く」動作になるだろう。意味が判らないけど。

*17:オーツ麦のふすまから作る発酵食品。再現事例を見ると、半固形ヨーグルトのような感じcailleachs-herbarium.com

*18:半固形ヨーグルトのようなものを、牛乳で伸ばす代わりにバタを加えるという。「湯気が立つ」のだから、加熱するのだろう。実際、上記の再現事例では、水を加えて煮詰める方法を紹介している。水ではなく牛乳、またはバタで煮込めば、さぞかし風味豊かな食品になるだろう。……しかし納豆のような発酵食品にバタを加えて加熱すると、何ができる?発酵食品独得の酸味と臭気が強くなるはず。おそらく食べ慣れている人以外には、鼻と口への暴行ではあるまいか

【対訳】ランボー『永遠』Éternité(その3)『地獄の季節』から

ランボー『地獄の季節』から「永遠」……が、無い?

今回は、ランボー『地獄の季節』Une Saison en Enfer (1873)所収の「永遠」Éternitéを翻訳する。「錯乱」DÉLIRES 2章「言葉の錬金術」ALCHIMIE DU VERBE の挿入歌になっている。

poetlabo.hatenablog.jp

fr.wikisource.org

bohemegalante.com

『地獄の季節』よりずっと後れて『イリュミナシオン』が出版されたけれど、その原稿は1872年のもので、『地獄の季節』の方が改訂版の『永遠』という事になる。結果として詩句は簡潔明瞭になり、脚韻は損なわれている。……のだが、影印を見て困ったことに

この韻文には、題名がない。他の例を見ると、挿入歌だからという訳でもなさそうだ。

Éternité ならではの詩句を含み、Éternité と同様に構成されるので、同じ詩と看做されており、しかし違うところもあって同一ではない。同じ詩ではないのだから、別の詩として扱うべきかもしれない。取り敢えず、そんな事情から、無題の詩としておく。無題の詩は、初行を以て題名代わりに呼ぶのが慣例である。


www.youtube.com

(見つかった!)

Arthur(アルテュール) Rimbaud(ランボー)/萩原 學(訳

見つかった!
何が?永遠が。
混ざり合った
 海、太陽と。

Elle est retrouvée! 
Quoi? l'éternité. 
C'est la mer mêlée*1
    Au soleil. 


www.youtube.com

我が永遠なる魂よ、
誓いは守らねば
孤独な夜にも
灼熱の昼もまた。

Mon âme*2 éternelle, 
Observe ton vœu*3
Malgré la nuit seule 
Et le jour en feu. 


www.youtube.com

かくして放たれる君よ
人の思惑からも、
有りふれた衝動からも!
飛べ、従う所は……

Donc tu te dégages 
Des humains suffrages,*4
Des communs élans! 
Tu voles selon.....*5


www.youtube.com

……希望はない。
 「昇る」ものなし。
科学と忍耐、
拷問避け難し。

―Jamais l'espérance.
    Pas d'orietur.
Science et patience,
Le supplice*6 est sûr.


www.youtube.com

もう明日なんてない、
サテン模様の残り火、
    君の情熱は
    義務なのだ。

Plus de lendemain,*7
Braises de satin, 
    Votre ardeur
    Est le devoir.*8


www.youtube.com

見つかった!
…何が?…永遠が。
混ざり合った
 海、太陽と。

Elle est retrouvée !
― Quoi?― l'Eternité.
C'est la mer mêlée
    Au soleil.*9


www.youtube.com


C'est la mer mêlée Au soleil という曲が複数あったので、ここで聴いてみる事にした。マーク・ノップラーのアルバム Get Lucky から、最後の曲 Piper to the End が夕陽を歌い、夕陽を収めた動画があったのはもちろん偶然だが。しみじみと良いアルバムなのに、あまり売れていないのか廃番になっているらしいのは残念なことだ。

塗り絵アプリ Color Planet に、それらしい絵が来たので追加した(2026.10.)。

訳注

*1 mêlée:
alliée から変更された似たような発音の語句だが、「溶け合う」より「入り交ざる」意味なようだ。

多数の勢力や人が入り混じって秩序を失う混沌とした状態をさす

motitown.com

francejapon.online

何だろう、此方は「異種金属が坩堝で跡形もなく溶け合い融合してできる合金」を想像していたら、出てきた「じゃがいもを蒸して潰して塩こしょうしてグリーンピースやら何やらとよく混ぜ合わせて作ります」的なサラダ感、あるいは「余った御飯に味噌汁かけて猫メシにして食った」的なグチャグチャ感は……そんな衝撃を読者にも共有して頂きたいが故の詩句を撰ぶことにした
*2
所有格がついて「我が魂」になった。英語でも soul として人格を示す事がある。といっても、自分の中の人とは限らない。恋人のことかもしれない
*3 :
vœuは「誓い」というより「願い」、Observe は「観察」「気づく」「遵守」であるから、「気づけ、自分の願いに」とも取れる
*4 :
同じ詩句を『イリュミナシオン』では「人々の投票」と訳したが、前後が入れ替わり雰囲気が変わっている
*5 :
気分的に「糸の切れた凧」「風のまにまに」で良いかと思うが、元の詩句から離れるので……
*6 supplice:
「耐え難い苦痛」の意味に解していたが、ふと気になって調べたら、元の意味は「拷問」だった。

日常会話では苦痛を誇張する語として使われることが多く、文学や報道では文字どおりの拷問の意味で用いられる場合もある。

motitown.com

fr.wikipedia.org

マジかい……聖職者が立ち会っているのがまた怖い。そんなんだから、ネタにされるんだぞ?

「いいですか?暴力を振るって良い相手は悪魔(バケモノ)共と異教徒共だけです。」

*7 :
ここは詩句が変わり、意味が変わっている
*8 :
より簡潔明瞭になり、用語の順序も受ける印象も違う
*9 :
この節は繰り返しではなく、結末と見るべきだろうか。朝日が昇ってから、夕陽が沈むまでの

【対訳】ランボー『永遠』Éternité(その2)『イリュミナシオン』より

『イリュミナシオン』LES ILLUMINATIONS より

前回お知らせした通り、ランボー『永遠』Éternité を訳すに当たり、詩集『イリュミナシオン』と『地獄の季節』にそれぞれ掲載された作品のうち、まず『イリュミナシオン』所収のものを訳す。

oomijinja.or.jp

写真は、日向(ひゅうが)市に鎮座し天照大神を祀る大御(おおみ)神社で撮った、朝日すなわち天照(あまてらす)の照り返し。朝9時を過ぎていたけれど、12月だったから日はまだ低い位置にあった。写真の枠上に本体がおはしまして、しかしそれを撮影範囲に入れると、海面の煌めきが飛んでしまう。ので、半身を天岩戸に隠れて頂いたような一枚になってしまった点は寛恕願いたい。日向(ひむか)の大海から上り、天(あま)と海(あま)の双方をあまねく照らす朝日こそがアマテラスである、これ則ち永遠であると、撮影した筆者は確信している。

永遠
ÉTERNITÉ

Arthur(アルテュール) Rimbaud(ランボー)/萩原 學(訳)

脚韻ABAB

また見つけた。
何を?永遠を。
連れ立ったは
海、太陽と。

Elle est retrouvée.
Quoi ? L’éternité.
C’est la mer alliée*1
Avec le soleil.


www.youtube.com

Get Lucky

Get Lucky

Amazon

寝ずの番の魂よ、
告白を囁こう
何一つない夜と
燃え盛る昼の。

Ame sentinelle*2,
Murmurons l’aveu*3
De la nuit si nulle
Et du jour en feu.*4


www.youtube.com

人々の投票、
共有した衝動から、
解放しよう。
その飛翔の従うは……

Des humains suffrages,
Des communs élans,
Donc tu te dégages:
Tu voles selon…


www.youtube.com

希望などあるものか、
「上りゆく」ものなどない
忍耐を伴う科学か……
「苦しみ」は避けられない。

Jamais l’espérance;
Pas d’orietur*5
Science avec patience…*6
Le supplice est sûr.


www.youtube.com

貴方の情熱のみ。
熾火(おきび)は繻子織(サテン)よろしく、
義務が薫り立ち
「遂に」の一言もなく。

De votre*7 ardeur seule,
Braises*8 de satin*9,
Le devoir s’exhale
Sans qu’on dise: enfin.

Une étoffe de satin violet. Jwrusa & Kjoonlee

また見つけた。
何を?永遠を。
連れ立ったは
海、太陽と。

Elle est retrouvée.
Quoi ? L’éternité.
C’est la mer alliée
Avec le soleil.


www.youtube.com

訳注

*1:alliée: 前回検討した通り、英語 gone に当たる。直後の avec と合わせて gone with と解釈できる

*2:「夜警」だとして、「太陽」と「海」どちらが成るのだろう?あるいは直後の「昼」と「夜」だろうか?

*3:訳語は他にもあるとは思うが、フランス映画『告白』L’aveu の印象ja.wikipedia.org

*4:「昼」と「夜」の対比は、ボードレール『理想』最終節を想わせる。ヘーシオドス『神統記』に拠れば、「昼」と「夜」は交替してタルタロスの城から出勤するので、何れも夜警たり得る

*5:orietur:ラテン語 orior(「上る」「起きる」「現れる」「目に見える」「生まれる」「発生する」)の三人称単数未来形能動直説法

*6:地動説を以て、天動説の否定と捉えたか?座標の原点を何処に置くかの違いに過ぎないのだが

*7:英語 your に当たる所有格。you は誰を指す?上る朝日か、これから語る熾火か、それとも読者か。

*8:braise: 燠(おき)。消し炭。火種は前行の「情熱」か?
転じて「炭が(火を上げず)ちろちろと燃える」様をいう。avoir des yeux de braise(爛々とした目)
さらに転じて「蒸し煮」(料理)をいう

*9:satin:「繻子織り」という織物の織り方をいい、その製品をもいう。fr.wikipedia.org「サテンの熾火」という言い方になっているのは、繻子織りを燃やす訳ではなく。炭火のちろちろ燃える様が、サテンのところどころ煌めくのに似るという事であろう

【比較】ランボー『永遠。』Éternité(その1)『イリュミナシオン』と『地獄の季節』

ランボーの『永遠。Éternité』

 これもランボーの名作だが、新訳を読んでいると、初めて読むもののような気になる。

www.eureka0313.com

 もちろん翻訳の仕方にも因るので、比べてみよう。と思ったら冒頭のみだが、既に比べているサイトがあった。ただ、サーバの安全性に問題があるようだから、見ないで済ませるか、対策は要する。

chuya-ism.cocolog-nifty.com

特に冒頭で引っ掛かるのは alliée の訳し方で、「溶け合う」「溶け込んだ」「とろけた」「番う」「共に去る」「手を取り合って行った」「いっしょに消えた」「混じった」「もろとも行って」などと訳し分けられている。それでは、と字引きを見ると、英語 gone に当たるものらしく、avec と合わせて gone with と考えれば、Gone with the Wind(風と共に去りぬ)の引用か?

ja.wikipedia.org


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www.youtube.com


www.youtube.com

ja.wikipedia.org

と思ったが、マーガレット・ミッチェルの原作(1936)はおろか、ネタ元のアーネスト・ダウスン「シナラCynara」(1891)も本作(1872, 1874)に間に合わない。

13  I have forgot much, Cynara! gone with the wind,

rpo.library.utoronto.ca

というか、「溶け合う」「混じった」は何処から?不思議に思って検索したら、版の違いだった。alliée じゃなくて、mêlée になっていた。

bohemegalante.com

『イリュミナシオン』LES ILLUMINATIONS と、『地獄の季節』UNE SAISON EN ENFER で、若干の違いがある。ということを、粟津則雄氏による翻訳で読んだ筈なのに、すっかり忘れていた。

御覧のとおり、ヴェルレーヌが関与した斜体の『イリュミナシオン』と、散文詩に組み込まれた『地獄の季節』では、体裁はかなり異なる。のみならず、『地獄の季節』では無題。

それでは、比較してみよう。

ÉTERNITÉ(または無題)


www.youtube.com

Elle est retrouvée,
Quoi? L'éternité.
C'est la mer allée
Avec le soleil.

Elle est retrouvée! 
Quoi? l'éternité. 
C'est la mer mêlée 
    Au soleil. 

Ame sentinelle,
Murmurons l'aveu
De la nuit si nulle
Et du jour en feu.

Mon âme éternelle, 
Observe ton vœu 
Malgré la nuit seule 
Et le jour en feu. 

Des humains suffrages,
Des communs élans,
Donc tu te dégages:
Tu voles selon...

Donc tu te dégages 
Des humains suffrages, 
Des communs élans! 
Tu voles selon..... 

Jamais l'espérance;
Pas d'orietur.
Science avec patience...
Le supplice est sûr.

Jamais l'espérance. 
    Pas d'orietur. 
Science et patience, 
Le supplice est sûr. 

De votre ardeur seule.
Braises de satin,
Le devoir s'exhale
Sans qu'on dise: enfin.

Plus de lendemain, 
Braises de satin, 
    Votre ardeur 
    Est le devoir. 

Elle est retrouvée.
Quoi? L'éternité.
C'est la mer allée
Avec le soleil.

Elle est retrouvée ! 
― Quoi?― l'Eternité. 
C'est la mer mêlée 
    Au soleil.


www.youtube.com

これは割と、別の詩になってないか?自分が訳していたのは『イリュミナシオン』の方だったが、それとは意識していなかったし、既訳を読む時も版の違いなど意識していなかった。ので、版ごとに訳し直そう。実は一旦訳し終えたのだけど、そういうわけで書き直し中につき、訳文の公開は延期させていただくということで……m(_ _)m

 代わりに、青空文庫から中原中也の訳を。『地獄の季節』からの翻訳だと思い込んでいたけれど、こうしてみると『イリュミナシオン』からだ。

永遠

また見付かつた。
何がだ? 永遠。
去(い)つてしまつた海のことさあ
太陽もろとも去(い)つてしまつた。

見張番の魂よ、
白状しようぜ
空無な夜(よ)に就き
燃ゆる日に就き。

人間共の配慮から、
世間共通(ならし)の逆上(のぼせ)から、
おまへはさつさと手を切つて
飛んでゆくべし……

もとより希望があるものか、
願ひの条(すぢ)があるものか
黙つて黙つて勘忍して……
苦痛なんざあ覚悟の前。

繻子(しゆす)の肌した深紅の燠(おき)よ、
それそのおまへと燃えてゐれあ
義務(つとめ)はすむといふものだ
やれやれといふ暇もなく。

また見付かつた。
何がだ? 永遠。
去(い)つてしまつた海のことさあ
太陽もろとも去(い)つてしまつた。

【対訳】ランボー『酔いどれ船』

ランボー『酔いどれ船』Le bateau ivre 和訳さまざま

www.eureka0313.com

古くからの名作 Le bateau ivre(1871)に、eureka0313氏の邦訳が出た。見ていて思ったのは

poetlabo.hatenablog.jp

コールリッジ『年寄り船乗り The Ancient Mariner』の影響であったが。検索しても、そんな話は出てこない。はて?という訳で、自分でも訳してみた。制作当時のランボー16歳は船に乗ったことも、船乗りに話を訊くこともなかったらしく、コールリッジの切実なリアリティには欠けるものの、それは問題にはならない。もとより立場も目指すところも違うのだから。

画像は塗り絵アプリ Color Planet から。翻訳の底本は Wikisource と Google books から。以下に参考文献を列べておく。

www.aozora.gr.jp

zenshi.chu.jp

www.a-happy.jp

bohemegalante.com

bohemegalante.com

bohemegalante.com

bohemegalante.com

bohemegalante.com

bohemegalante.com

bohemegalante.com

ameblo.jp


www.youtube.com 


www.youtube.com


www.youtube.com

酔いどれ船
Le bateau ivre

Jean-Arthur(ジャン=アルテュール) Rimbaud(ランボー)
萩原 學(訳)

脚韻ABAB 

イリヤ・レーピン『ヴォルガの船曳き』


www.youtube.com ヴォルガの舟唄 歌:フェードル・シャリアピン

皺の一つもない大河を、我は下るそのうちに、
いつしか身に覚えなく、船曳き人夫の曳く手すら。
叫び狂う原住民たち、よき的なれとばかりに、
人夫の裸体釘付けたれば、色とりどりの磔柱(はりつけばしら)。

Comme je descendais des Fleuves*1 impassibles*2, 
Je ne me sentis plus guidé par les haleurs*3: 
Des Peaux-rouges*4 criards les avaient pris pour cibles, 
Les ayant*5 cloués*6 nus aux poteaux*7 de couleurs*8.


www.youtube.com シュッツ:十字架上の七つの言葉

船員にしても積荷にしても知ったことか、
フラマンの小麦であれ、英国の木綿であれ。
曳き手たちによる大騒ぎも収まったなら、
川が、我が気の向くまにまに漂わせてくれ。

J'étais insoucieux de tous les équipages*9, 
Porteur de blés flamands*10 ou de cotons anglais. 
Quand avec mes haleurs ont fini ces tapages, 
Les Fleuves m'ont laissé descendre où je voulais.


www.youtube.com Tom Bodin : Dans les clapotements furieux des marées

轟々と打ち寄せる潮騒の直中(ただなか)、
我は去年の冬、子供よりも聞き分けのない頭をして、
走った!飛び出した半島様々(さまざま)、
これほどの勝利の喧騒に巻き込まれたこともなくて。

Dans les clapotements*11, furieux*12 des marées*13
Moi, l'autre hiver, plus sourd que les cerveaux d'enfants, 
Je courus! et les Péninsules démarrées*14
N'ont pas subi tohu-bohus*15 plus triomphants.


www.youtube.com

我が海なるものへの目覚め、嵐ぞ祝福し給えり。
コルク栓より軽やかに、波の上にぞ舞い踊る……
数多の犠牲呑み込める、かの久しきうねりの上に、
十夜、見当違いな角灯群の光なぞ目もくれず!

La tempête a béni mes éveils maritimes.*16
Plus léger qu’un bouchon*17 j’ai dansé sur les flots*18
Qu’on appelle rouleurs éternels de victimes,*19
Dix nuits*20, sans regretter l’œil niais des falots !


www.youtube.com

子供には酸っぱいリンゴの果肉よりも甘美に、
緑の奔流が、松材の船体を貫き、
青いワインの染みや吐瀉物の汚れをさっぱり
洗い流し、舵(かじ)も錨(いかり)も持っていき。

Plus douce qu’aux enfants la chair des pommes*21 sures,
L’eau verte*22 pénétra ma coque de sapin
Et des taches de vins bleus et des vomissures
Me lava, dispersant*23 gouvernail et grappin.


www.youtube.com

そしてそれ以来、我が身を浸せるは「詩」に、
「海」に、ひたひた湛えしは星々と乳白色を、
むさぼり食うは緑なす蒼穹を。漂うは蒼白い
恍惚たる、思いに耽る、時には沈む水死体よ。

Et dès lors, je me suis baigné dans le Poème
De la Mer, infusé*24 d’astres, et lactescent,
Dévorant les azurs verts; où, flottaison blême
Et ravie, un noyé pensif parfois descend;


www.youtube.com Le pianiste Ismaël Margain interprète la valse "La Plus que lente" de Claude Debussy.

そこには、青い海原を不意に染め上げる、熱狂と
レントのリズムが、煌めく日の光の下にて、
アルコールよりも強く、我らの竪琴よりも広々と、
愛が苦く固まる赤茶色い染みを醸し出して!

Où, teignant tout à coup les bleuités*25, délires
Et rythmes lents*26 sous les rutilements du jour,
Plus fortes que l’alcool, plus vastes que nos lyres,
Fermentent les rousseurs amères de l’amour !


www.youtube.com

我は知る、稲妻に裂ける空を、竜巻を、
砕け散る波を、潮の流れを。我はまた夕暮れをも知る、
白鳩の群れのように高揚する夜明けを、
人が見たと信じたものを、我もまた時に目にしている!

Je sais les cieux crevant en éclairs, et les trombes
Et les ressacs, et les courants : je sais le soir,
L’Aube exaltée ainsi qu’un peuple de colombes,
Et j’ai vu quelquefois ce que l’homme a cru voir !


www.youtube.com

見た、謎の戦慄が憑く低い太陽、
紫色に凍てついた光景を長々と照らし出して
それはまるで遠い昔の悲劇俳優
彼方に巻き上がる波、その両翼とも袖振って!

J’ai vu le soleil bas, taché d’horreurs mystiques,
Illuminant de longs figements violets,
Pareils à des acteurs de drames très antiques
Les flots roulant au loin leurs frissons*27 de volets*28!


www.youtube.com


www.youtube.com

我は夢見た、雪も眩(まばゆ)い緑の夜を、
海の目へとのろのろと上りゆく口づけを、
夢にも見なかった樹液の循環を、
燐なる歌い手の黄色く青い目覚めを!

J’ai rêvé la nuit verte*29*30 aux neiges éblouies,
Baisers montant aux yeux des mers*31 avec lenteurs,
La circulation des sèves inouïes,
Et l’éveil jaune et bleu des phosphores*32 chanteurs!


www.youtube.com

意地悪婆さんのように、何ヶ月もの間
岩礁に襲いかかるうねりをただ見守っていた。
思いもよらず、花嫁たちの輝ける足が
荒い息を吐く大洋の鼻面を蹴り返せようとは!

J’ai suivi, des mois pleins, pareille aux vacheries*33,
Hystériques*34 la houle à l’assaut des récifs,
Sans songer que les pieds lumineux des Maries*35
Pussent forcer le mufle aux Océans poussifs !


www.youtube.com

我は衝突、世にも不思議なフロリダ
お花畑の切れ目に豹の目、人の皮を被る!
手綱のように、ぴんと張られた虹が
水平線の下に、海緑色の大群に向かう!

J’ai heurté, savez-vous, d’incroyables Florides*36
Mêlant aux fleurs des yeux de panthères à peaux
D’hommes ! Des arcs-en-ciel tendus comme des brides
Sous l’horizon des mers, à de glauques troupeaux !


www.youtube.com

広大な沼地が発酵し蠢(うごめ)くのを見た、巨いなる梁(やな)、
葦の茂みの中、レビヤタンの巨体腐りゆく所!
崩れ落ちる水が凪のさなか、
彼方の深淵めがけて急降下、滝と化すところ!

J’ai vu fermenter les marais énormes, nasses
Où pourrit dans les joncs tout un Léviathan*37!
Des écroulements d’eaux au milieu des bonaces,
Et les lointains vers les gouffres cataractant!*38


www.youtube.com

氷河、銀の太陽、真珠色の波、燃えさしの空*39!
茶色い入り江数々の底、厭わしい難破船何隻も
巨大な蛇が害虫に食われ、ねじれた木々から
黒い香り漂わせつつ転げ落ちていく、何匹も!

Glaciers, soleils d’argent, flots nacreux, cieux de braises !
Échouages hideux au fond des golfes bruns
Où les serpents géants dévorés des punaises
Choient, des arbres tordus, avec de noirs parfums!*40


www.youtube.com マーラー:歌曲集『子供の不思議な角笛』より「魚に説教するパドヴァの聖アントニウス」

子供たちに見せてやりたかった、鯛の数種類
青い波に乗る、黄金の魚、歌う魚たちを。
……花ひらく泡が我が鯛たちを優しく包み込み
言葉に尽くせぬ風、たちまち我が翼とも。

J’aurais voulu montrer aux enfants ces dorades*41
Du flot bleu, ces poissons d’or*42, ces poissons chantants.
— Des écumes de fleurs ont bercé mes dérades
Et d’ineffables vents m’ont ailé par instants.


www.youtube.com

時折、極地や教区に疲れ果てた殉教者のように、
そのすすり泣きで優しく我を揺らした海が
黄色い吸盤のついた、日陰の花を我に差し出し、
跪く女のように我は、そこに佇んでいたが……

Parfois, martyr lassé des pôles*43*44 et des zones*45,
La mer dont le sanglot faisait mon roulis doux
Montait vers moi ses fleurs d’ombre aux ventouses jaunes*46
Et je restais, ainsi qu’une femme à genoux…

3 June 2016, Tangopaso
public domain.

ほとんど島な、我が船縁(ふなべり)を打ちのめすは喧嘩や
鳥類の糞、金色の瞳でピーチクパーチク。
されば航走だ、ぼろぼろの我が係留索も抜けた
溺死者たちは、いやでも眠りに就かせる!

Presque île, ballottant sur mes bords les querelles
Et les fientes d’oiseaux clabaudeurs aux yeux blonds.
Et je voguais, lorsqu’à travers mes liens frêles
Des noyés descendaient dormir, à reculons !


www.youtube.com

今や我は、入り江の毛管に迷い込んだ小舟よ、
ハリケーンに投げられて、鳥も居ない上層大気(エーテル)へ、
我、モニター艦かハンザ同盟の帆船なろうとも
水浸しの廃船なんて、もう誰も引揚げまいて。

Or moi, bateau perdu sous les cheveux des anses,
Jeté par l’ouragan dans l’éther sans oiseau,
Moi dont les Monitors*47 et les voiliers des Hanses*48
N’auraient pas repêché la carcasse ivre d’eau*49;


www.youtube.com

自由に、湯気噴き、紫の靄(もや)立ち上らせる、
我は突き抜ける、壁のように赤く染まる空を
真(まこと)の詩人にとっての極上のジャムである、
その中には、太陽の地衣類と紺碧の鼻水を、

Libre, fumant, monté de brumes violettes,
Moi qui trouais le ciel rougeoyant comme un mur
Qui porte, confiture exquise aux bons poètes,
Des lichens*50 de soleil et des morves d’azur,


www.youtube.com

誰か走る、電(いなづま)走る三日月に塗(まみ)れ、
板はイカれ、黒いヒッポカムポスに付き添われ、
7月ともなれば、棍棒多数に崩され
ウルトラマリンの空、さても燃え盛る漏斗たれ。

Qui courais, taché de lunules électriques,
Planche folle, escorté des hippocampes*51 noirs,
Quand les juillets*52 faisaient crouler à coups de triques
Les cieux ultramarins aux ardents entonnoirs;

『メエルシュトレエムに呑まれて』挿絵
1919, ハリー・クラーク (1889–1931)

我は身震い、50里の彼方に唸り聞きつけるは
発情期のベヒモスか、途方もないメイルストロムか、
青き静止の久しき紡ぎ手たる我が、
ヨーロッパと、その古(いにしえ)の城壁を懐かしむのか!

Moi qui tremblais, sentant geindre à cinquante lieues
Le rut des Béhémots*53 et les Maelstroms*54 épais,
Fileur*55 éternel des immobilités bleues*56,
Je regrette l’Europe aux anciens parapets !


www.youtube.com

Galactic level; 2021年3月18日, Stafdim
CC BY-SA 4.0

星々の群島を!そして島々を、我は見た
漕ぎゆく人へ開かれた、常軌を逸した空を。
……この底知れぬ夜に眠り、身を隠すのか、
百万もの黄金の鳥たちよ、未来への活力よ!……

J’ai vu des archipels sidéraux*57! et des îles
Dont les cieux délirants sont ouverts au vogueur:
— Est-ce en ces nuits sans fonds que tu dors et t’exiles,
Million d’oiseaux d’or, ô future Vigueur ? —


www.youtube.com

しかし、真に、泣き過ぎた! 夜明けは実に痛ましい。
どの月も無慙、どの日も苦くて。
辛辣な愛の気怠い陶酔に、心も脹らみパンパンに。
砕け散れ、我が竜骨(キール)よ! 我が身を海へ!

Mais, vrai, j’ai trop pleuré ! Les Aubes sont navrantes.
Toute lune est atroce et tout soleil amer:
L’âcre amour m’a gonflé de torpeurs enivrantes.
Ô que ma quille*58 éclate ! Ô que j’aille à la mer !


www.youtube.com Can't find my way home; Steve Winwood + Eric Clapton 

もしヨーロッパの水を慕うなら、あの水たまりだ、
暗く冷たい。かぐわしいたそがれ時に
悲しみに沈む子供がしゃがみ込んだ、
儚い小舟を浮かべる、皐月の蝶のように。

Si je désire une eau d’Europe, c’est la flache
Noire et froide où vers le crépuscule embaumé
Un enfant accroupi, plein de tristesse, lâche
Un bateau frêle comme un papillon de mai.


www.youtube.com

そしてもはや、我も汝が物憂さに身を浸しては、ああ波よ、
木綿の運び手たちの航跡を消すことも、 
旗や松明(たいまつ)の威光に立ち向かうことも、 
もうできない、監獄船の恐ろしげな視線の下を泳ぐことも!

Je ne puis plus, baigné de vos langueurs, ô lames, 
Enlever leur sillage aux porteurs de cotons, 
Ni traverser l'orgueil des drapeaux*59 et des flammes, 
Ni nager sous les yeux horribles*60 des pontons!*61

訳注

*1 Fleuves:
複数形で、フランスなら大河5流すなわち
  1. La Seine(セーヌ)
  2. La Loire(ロワール)
  3. La Garonne(ガロンヌ)
  4. Le Rhône(ローヌ)
  5. Le Rhin(ライン)
をいう。筈だが、ここでは新大陸のミシシッピ・コロラド・コロンビア・ユーコンなどを夢想しているらしい
*2 impassibles:
「無情」「無表情」の訳語を見るけれども、波の立たない静水面の描写であろう。大陸では河川の落差が低く、流れの止まる事が少なくない
*3 haleur:
舟を陸から牽く職業に就く人。船曵きは無動力船の時代、川を下った舟を川上に戻すには必須であった。当然ながら、川を下る時は不要

fr.wikipedia.org

*4 Peaux-rouge:
「赤肌」とは北米原住民を指す古い言い方 George Catlin (1796–1872) No Horns on His Head, a Brave(1832)
*5 ayant:
同じ綴りの動詞もあるが、此方は冠詞がつくから名詞で「前記」の意
*6 cloués:
動詞「釘付ける」おそらく「救い主の磔刑」を意識したものであろう
*7 poteaux:
「柱」「杭」をいう。但し、ここでは支柱などではない
*8 poteaux de couleurs:
「彩色されたポール」と言えば、トーテムポールであろうか
*9 équipages:
tapages と韻を踏み、「乗組員」を意味するこの単語はしかし、この1箇所しか使用されていない。船曵き haleurs と区別できていたか些か怪しく、同じことを言い換えたつもりだった可能性が高い
*10 flamands:
フランドル地方。だいたい今のベルギー
*11 clapotement:
名詞「波打ち」
*12 furieux:
「猛り狂う」
*13 marée:
「潮汐」「高潮」
*14 Péninsules démarrées:
字面からは「半島群が始動」などとなる。しかし半島が動く筈もなく、他に意味があるとも思えない。 motitown.com 多くの港は河口を利用するため岬に沿うものもあり、「船から見ると岬が揺れている」とする説もあり、しかし「岬」は pointe または cap というし、単に「去年の冬」が一番波がキツかったという意味なら何の「勝利」かとなるし、正直言って意味不明
*15 tohu-bohu:
「東風暴風」「逃亡」と聞こえるこの語は、創世記1章冒頭の「形なく、むなしく、」に当たるヘブライ語表記に由来し、フランス語では「しっちゃかめっちゃか」「大騒ぎ」「大混乱」を意味する。

創世記1章
はじめに神は天と地とを創造された。2 地は形なく、むなしく、やみが淵のおもてにあり、神の霊が水のおもてをおおっていた。

W.H. オーデン“In Sickness and in Health,” (1942)のほか、The Oxford English Dictionary に拠れば、ラブレー(1548)、ヴォルテール(1776)、19世紀のグラッドストン、ブラウニング、L・S・ホートン、20世紀のウォルター・リップマンによる用例が確認されている evidenceanecdotal.blogspot.com
*16
川船が海に出て自由を得たかに歌う。喫水の浅い川船と、耐波性を求められる外洋船との違いをランボー16歳が心得ていたとは思えない
*17 bouchon:
語義は「栓」であり、実は「コルク」は入っていない。しかし嘗ては「栓」はほぼ「コルク栓」であり、詩人もそのつもりで使っている
*18
『年寄り船乗り』第1部

With sloping masts and dipping prow,
Still treads the shadow of his foe
And forward bends his head,
The ship drove fast, loud roar'd the blast,
The southward aye we fled.

*19
『年寄り船乗り』第3部

Four times fifty living men,
(And I heard nor sigh nor groan)
With heavy thump, a lifeless lump,
They dropped down one by one.

*20
『年寄り船乗り』第1部

It perch'd for vespers nine;

It はアホウドリ
*21 pommes:
エデンの園に生える「知恵の樹」はリンゴとされる
*22 L’eau verte:
この名を持つ川があるから、「川の水」という事だろうか?
*23dispersant:
「散らす」「四散する」の意。訳語は「奔流」を主語とすべく少々ひねった
*24infusé:
「抽出する」「蒸らす」「漬け込む」といった意味合いなのだが、「乳白色を海に漬け込む」としたら何か臭ってきそうなので変えた
*25 bleuité:
bleu(青)からランボーが捏造した新語
*26 lent:
ゆったりとしたリズムの一つにレントというのがあり、ドビュッシーに『レントより遅く』という曲もある
*27 frisson:
Etymonline に拠ると、ラテン語 frigere(冷たい)に由来し、英語thrill の素になった、「震え」「感動」「スリル」を意味する言葉。ランボーは「身震いする」のを更にひねっているようだ
*28 volet:
概ね「鎧戸」をいうが、英語圏では専ら三連祭壇画の両翼を指し、転じて「区画」をいうことも。前行で「俳優」を出しているから、「両翼」で「波打つ」に近い俳優の「身震いする」所作は何かと考えると、1列に列んで両手を振るものではないか。上田敏訳がこれに近いので、手本とした。「をちにひれふる」とあるのは「彼方に領巾振る」の読み
*29 la nuit verte:
『年寄り船乗り』第1部

And ice, mast-high, came floating by,
As green as emerald.

*30 la nuit verte:
グリーンランドでは緑色のオーロラを見ることができる。フランスでは見えないので、このことだとしたら、本で読んだか人づてに聞いたのであろう
夜空に広がるオーロラ グリーンランドの風景beautiful-photo.net
*31 yeux des mers:
「海の目」は小説や歌の題名にもなっている割に実体が不明。潮目?海面上の夕陽?
*32phosphores:
「燐」をいう。此処ではおそらく、黄燐マッチが音を立てて燃える様子であろう
*33 vacherie:
(vache「牛」に由来し)「牛小屋」から転じて「意地悪」「嫌がらせ」をいう女性名詞
*34 Hystérique:
感情の抑制ができない「ヒステリック」そのものであるが、病名としては問題が多く使われなくなった
*35 Maries:
この一語は名詞「新郎「新婦」の複数形または「夫婦」、動詞marier「結婚する」「結婚させる」の活用形とも、はたまた女性の名である Marie の集合とも取れる、厄介な書き方になっている。特に女性名とした場合は聖母マリアを含意し、海上では海の星の聖母 Stella Maris すなわち北極星として崇拝される存在でもあり、『年寄り船乗り』第5部にも歌われている。

Oh sleep! it is a gentle thing,
Belov'd from pole to pole!
To Mary Queen the praise be given!
She sent the gentle sleep from Heaven,
That slid into my soul.

*36 Florides:
実際のフロリダ州は全米で最も平坦な地形で、ぶつかる崖など無く、複数は存在しない
*37 Léviathan:
レビヤタン、英語読み「リヴァイアサン」は、ヘブライ語で「鯨」をいい、聖書では「わに」と訳す。

ヨブ記41章

1あなたはつり針で
わにをつり出すことができるか。糸でその舌を押えることができるか。
2 あなたは葦のなわをその鼻に通すことができるか。つり針でそのあごを突き通すことができるか。
3 これはしきりに、あなたに願い求めるであろうか。柔らかな言葉をあなたに語るであろうか。
4 これはあなたと契約を結ぶであろうか。あなたはこれを取って、ながくあなたのしもべと
することができるであろうか。
5 あなたは鳥と戯れるようにこれと戯れ、
またあなたのおとめたちのために、
これをつないでおくことができるであろうか。
6 商人の仲間はこれを商品として、
小売商人の間に分けるであろうか。
7 あなたは、もりでその皮を満たし、
やすでその頭を突き通すことができるか。
8 あなたの手をこれの上に置け、
あなたは戦いを思い出して、
再びこれをしないであろう。
9 見よ、その望みはむなしくなり、
これを見てすら倒れる。
10 あえてこれを激する勇気のある者はひとりもない。それで、だれがわたしの前に立つことができるか。
11 だれが先にわたしに与えたので、
わたしはこれに報いるのか。天が下にあるものは、ことごとくわたしのものだ。
12 わたしはこれが全身と、その著しい力と、
その美しい構造について
黙っていることはできない。
13 だれがその上着をはぐことができるか。だれがその二重のよろいの間に
はいることができるか。
14 だれがその顔の戸を開くことができるか。そのまわりの歯は恐ろしい。
15 その背は盾の列でできていて、
その堅く閉じたさまは密封したように、
16 相互に密接して、
風もその間に、はいることができず、
17 互に相連なり、
固く着いて離すことができない。
18 これが、くしゃみすれば光を発し、
その目はあけぼののまぶたに似ている。
19 その口からは、たいまつが燃えいで、
火花をいだす。
20 その鼻の穴からは煙が出てきて、
さながら煮え立つなべの水煙のごとく、
燃える葦の煙のようだ。
21 その息は炭火をおこし、
その口からは炎が出る。
22 その首には力が宿っていて、
恐ろしさが、その前に踊っている。
23 その肉片は密接に相連なり、
固く身に着いて動かすことができない。
24 その心臓は石のように堅く、
うすの下石のように堅い。
25 その身を起すときは勇士も恐れ、
その衝撃によってあわて惑う。
26 つるぎがこれを撃っても、きかない、
やりも、矢も、もりも用をなさない。
27 これは鉄を見ること、わらのように、
青銅を見ること朽ち木のようである。
28 弓矢もこれを逃がすことができない。石投げの石もこれには、わらくずとなる。
29 こん棒もわらくずのようにみなされ、
投げやりの響きを、これはあざ笑う。
30 その下腹は鋭いかわらのかけらのようで、
麦こき板のようにその身を泥の上に伸ばす。
31 これは淵をかなえのように沸きかえらせ、
海を香油のなべのようにする。
32 これは自分のあとに光る道を残し、
淵をしらがのように思わせる。
33 地の上にはこれと並ぶものなく、
これは恐れのない者に造られた。
34 これはすべての高き者をさげすみ、
すべての誇り高ぶる者の王である」。

イザヤ書27章

その日、主は堅く大いなる強いつるぎで逃げるへびレビヤタン、曲りくねるへびレビヤタンを罰し、また海におる龍を殺される。

*38
『年寄り船乗り』第7部

Under the water it rumbled on,
Still louder and more dread:
It reached the ship, it split the bay;
The ship went down like lead.

*39
この節の名詞は太陽や空までも複数形ばかりだが、この行では再現できなかった。というか、複数形があるとは思わなかった
*40
『年寄り船乗り』第4部

Beyond the shadow of the ship,
I watched the water-snakes:
They moved in tracks of shining white,
And when they reared, the elfish light
Fell off in hoary flakes.

*41 dorade:
ヨーロッパヘダイと呼ばれる鯛で、真鯛ではない。食用
*42 d’or:
フランス語の or は「黄金」。 dorade の見た目は黒っぽく、光が当たると煌めくものの、金色には見えない。その名から黄金郷 El Doradoに掛けている
*43 pôles:
複数形なので南極+北極。極地探検隊に宗教家が属することは無かったが、多くの犠牲を伴ったのは史実
*44
『年寄り船乗り』第5部

Oh sleep! it is a gentle thing,
Belov'd from pole to pole!

*45 zones:
何の「ゾーン」かは書かず読者の想像に任す形ではあるものの、martyr(殉教者)の一言に束縛される
*46 fleurs d’ombre aux ventouses jaunes:
「黄色い吸盤のついた日陰の花」というと、水仙の一種だろうか?Narcissus poeticus
19:09, 3 April 2006, Tigerente; CC BY-SA 3.0
*47 Monitor:
合衆国の南北戦争中に北軍が配備した、初の旋回砲塔を持つ装甲艦。及び諸国の同型艦。要するにカネの掛かった船
*48 Hanzes:
北海及びバルト海経済圏を支配した都市同盟。の船。要するに財産が掛かった船
*49
モニター艦は敵の攻撃を躱すため、甲板が水面に近い、半潜水艦のような設計であった。この特徴のため、外洋に出て沈んだ
*50 lichens:
この語だけはポリドリ博士『吸血鬼』にも出てくる。しかしコールリッジ『年寄り船乗り』とは異なり、本作に吸血鬼モチーフは見られない
*51 hippocampe:
ギリシャ語由来の語義は「海の馬」で、神話上の存在。今ではタツノオトシゴ、及びその形状に似た人体の器官をいう
*52 juillets:
「7月」を複数形にしている。七月革命の月が年々めぐり来るイメージだろうか
*53 Béhémots:
ベヒモスという怪獣は、口語訳聖書では「河馬」と訳され、それが間違ってはいなかったようである。

ヨブ記40章

15 河馬を見よ、
これはあなたと同様にわたしが造ったもので、
牛のように草を食う。
16 見よ、その力は腰にあり、
その勢いは腹の筋にある。
17 これはその尾を香柏のように動かし、
そのももの筋は互にからみ合う。
18 その骨は青銅の管のようで、
その肋骨は鉄の棒のようだ。
19 これは神のわざの第一のものであって、
これを造った者がこれにつるぎを授けた。
20 山もこれがために食物をいだし、
もろもろの野の獣もそこに遊ぶ。
21 これは酸棗の木の下に伏し、
葦の茂み、または沼に隠れている。
22 酸棗の木はその陰でこれをおおい、
川の柳はこれをめぐり囲む。
23 見よ、たとい川が荒れても、これは驚かない。ヨルダンがその口に注ぎかかっても、
これはあわてない。
24 だれが、かぎでこれを捕えることができるか。だれが、わなでその鼻を貫くことができるか。

この事について、こんな記事もあった。

app.famitsu.com

但し、これは「ファミ通」に掲載された、ゲームデザイナーの書いた記事なので、そのつもりで。ベヒモス Béhémot がバフォメット Baphomet に至った経緯にも軽く触れる辺り、意外と間違ってはいないが、この手の話は出典を参照しつつ読むべきものだ。

*54 Maelstrom:
エドガー・アラン・ポオ『メエルシュトレエムに呑まれて』以外の何物でもなく、これを仏訳したボードレールの影響も窺える
*55 Fileur:
名詞「紡ぎ手」、元の動詞は filer。僅かな綴り違いで「花」にも「失敗」にもなる
*56 immobilités bleues:
海洋がいつまでも静止している訳もなく、ここは『年寄り船乗り』第2部で「静かの海」に入った描写の追想であろう。サルガッソーはコロンブスの報告にあるけれども、コールリッジの時代にはまだ一般的ではなかったようだ

We were the first that ever burst
Into that silent sea.

*57 archipels sidéraux:
星雲の一覧表メシエカタログを、シャルル・メシエが作成したのは1774〜1784年であったから、ランボーも星雲の存在は知っていたであろう。ただ、特に関心を向けていたとは思えない
*58 quille:
木造外洋船に於ける竜骨は、船の背骨を作すと共に、耐波性を増し復元力を保つための構造でもある。FRP船が主流の今では、腹ビレのように船底に突き出した水中安定翼をフィン・キールと称する。 yougo.kazi.co.jp 海を見た事がなかったランボー16歳はおそらく、このフィンキールを理解できず、異様に不自然で自由を妨げるものと思い込み、「砕け散れ」と命じたのであろう。しかしヨットがキールを失うとは、転覆に抗する復元力を失う事でもある。辺野古沖転覆事件も、湾内でのみ用いるべきボートを外洋に、事もあろうにわざわざ波の荒いところへ乗り出したのが一因だ。少なくとも報道写真を見る限り、船底にフィンキールもディープキールも見当たらない。 www.asahi.com 船主船員のみならず、あらゆる船の利用者は、このような暴挙を許してはならない
*59 drapeaux:
国際信号旗は1857年に定められた。この語は「旗」一般を指すから違うのかもしれないし、アメリカ独立戦争は1783年に終わりフランス革命の一因にもなっているから、得るところがなかったフランス人が今さら敵意を燃やしても無駄だと思うのだが
*60
「鉛の視線が頬に落ちる」という描写だったなら『吸血鬼』冒頭の表現になるのだが、そこは意識されていないようだ。やはり『年寄り船乗り』全体に於けるメスメリズムの追想であろう
*61 ponton:
字引きには「浮き桟橋」「艀(はしけ)」とあり、そんな恐ろしいものがないので不思議に思っていたところ、LA BOHEME(ボエム) GALANTE(ギャラント) ブログで「囚人船」に触れられていた。探すと Wikipedia にも記事があり、廃船となった軍艦を転用した監獄船が19世紀まで存在したという。多くはイギリス船だが、フランスでもナント(Pontons de Nantes)とロシュフォール(Pontons de Rochefort)に3隻ずつ停泊していた
 ルイ・ル・ブルトン『トゥーロンの廃船』 fr.wikipedia.org