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【対訳】ボードレール『悪の華』112. 善良なる姉妹 + ラヴェル: ヴァイオリンとチェロのソナタ

悪の華
Les Fleurs du mal (1861)

Charlesシャルル Baudelaireボードレール/萩原 學(訳)

悪の花々
FLEURS DU MAL


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112. 善良なる姉妹
CXII
LES DEUX BONNES SŒURS

ソネット形式 脚韻ABAB CDCD EFF EGG 

元ネタはヒエロニムス・ボスの祭壇画ではないかと思われるが、今では分断され個別に展示されているので、原型を想定して列べてみる。左翼上側『愚者の船』、左翼下側『大食と快楽の寓意』、右翼『死と守銭奴』となっている。

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放蕩」と「」、愛らしい少女二人、
惜しみない口づけ、はち切れそうに健康、
その脇腹は常に処女、ぼろ布に覆われてあり、
永遠の労働の下、子を産んだことは全くなく。

La Débauche et la Mort sont deux aimables filles,
Prodigues de baisers et riches de santé*1,
Dont le flanc*2 toujours vierge et drapé de guenilles
Sous l’éternel labeur n’a jamais enfanté.

Charmille du Haut-MaretJean-Pol GRANDMONT, 2007.
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詩人は陰険に、家族の敵になる、
地獄の寵児、不遇の廷臣に、
墓と娼館、かの並木道から見える
寝床、悔恨が足繁く訪れたことのない。

Au poëte sinistre, ennemi des familles,
Favori de l’enfer, courtisan mal renté,
Tombeaux et lupanars montrent sous leurs charmilles*3
Un lit que le remords n’a jamais fréquenté.


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そしてビールとアルコーヴは、豊饒なる冒涜の中
仲良し姉妹二人のように交互に提供
ぞっとする快楽と身の毛もよだつ甘味を。

Et la bière*4 et l’alcôve*5 en blasphèmes fécondes
Nous offrent tour à tour, comme deux bonnes sœurs,
De terribles plaisirs et d’affreuses douceurs.


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汚れた腕の放蕩者よ、いつ私を葬るのか?
来るのはいつになる、魅惑的な好敵手よ、死よ、
不潔な銀梅花に、黒い糸杉を接ぎ木しに?

Quand veux-tu m’enterrer, Débauche aux bras immondes ?
Ô Mort, quand viendras-tu, sa rivale en attraits,
Sur ses myrtes*6 infects enter tes noirs cyprès*7 ?

ラヴェル: ヴァイオリンとチェロのソナタ


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 ラヴェルが遺した作品の中でも、前衛的な色彩が強い一曲。ヴァイオリンとチェロという組み合わせからして異色。同じヴァイオリン族ということもあってか、互いに役を交換したり、互いに一人で二人分弾いてるとしか思えない節があったり、作る方も演る方も全くよくやるものだ。

訳注

「姉妹」足り得る一対のものを列べるのみ。一定の物事を追求する感じではないのに、「性」と「死」を常に憑き纏わせることで、死生観を語るようでもある。

*1:riches は英語 rich と大差ないようだが、翻訳機が「豊かな健康」と出力するのはどうかと思う

*2:「脇腹」は肝臓があるところで、ガレノス以来、血流の源と考えられていた。子を孕む子宮を「胎」というくらいだから「腹」でもおかしくはないが、「脇腹」は不自然である。と考えて調べたが、今のところ理由不明

*3:造園されたシデの並木道、というより緑のトンネル。英語では tree tunnel というようだ。住宅街から好ましからざるモノが見えにくいように造り込まれていたのかも知れず、それを詩人が故意に「寝床が窺える」と言い換えたのかもしれないfr.wikipedia.org

*4:ボードレールはビール飲まないのかと思っていたので、此処で出てくるのは驚き。但し、ほぼ同じ発音と綴りで bier(棺台)の語があるから、「ビールを棺台に載せる」ことにしたかったのかも

*5:「壁龕」から転じて「閨房」「情事」を言う。これまで大半は「壁龕」であったが、此処では「情事」に傾くと同時に「アルコール」を匂わせる

*6:古くはシュメールでイナンナの花、ギリシャではアプロディーテーの花、ローマではウェヌスの花とされ、愛、不死、純潔の象徴として、花嫁のブーケに使われるja.wikipedia.org

*7:イトスギはクリスマスツリーになり、ノアの箱舟になるほど腐りにくく、しかしそのため棺材に使われ、やがて「死」の象徴と化してしまったja.wikipedia.org