悪の華
Les Fleurs du mal (1861)
Charles Baudelaire/萩原 學(訳)
絵に描いたパリ様々
TABLEAUX PARISIENS

99.
XCIX « Je n’ai pas oublié, voisine de la ville »
対句
本作を含め、無題の詩は初行を以て呼ぶのを慣例とする。しかし原本では番号のみ記すものと承知されたい。

私は忘れたりしない、街の近くの、
小さく閑静な、私たちの白い家を。
石膏のポーモーナと古いヴィーナスが
裸の肢体を隠す、ちっぽけな木立の中、
そして太陽、夕方の、喜び溢れて素晴らしい、
その光束が窓の向こうで砕け散っていたし、
まるで、興味津々な空に見開く大きな目で、
私たちの長く静かな晩餐を見守ってくれて、
美しい大蝋燭の照り返し、まき散らすは一面に
質素なテーブルクロスや、サージのカーテンに。
Je n’ai pas oublié, voisine de la ville,
Notre blanche maison, petite mais tranquille ;
Sa Pomone*1 de plâtre et sa vieille Vénus
Dans un bosquet chétif cachant leurs membres nus,
Et le soleil, le soir, ruisselant et superbe,
Qui, derrière la vitre où se brisait*02 sa gerbe*3,
Semblait, grand œil ouvert dans le ciel curieux,
Contempler nos dîners longs et silencieux,
Répandant largement ses beaux reflets de cierge*4
Sur la nappe frugale et les rideaux de serge.
ショスタコーヴィチ第3弦楽四重奏曲
ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲、順番で言えば2番だが、あまりに曲想と詩想が合ってないものだから、一つ飛ばした。確かNHK - FM音楽番組のテーマに使われていたが、はて何と言ったか。ノア四重奏団は、構成員の半数が女性なのもあってか、柔らかい語り口がこの曲には合っているように感じる。
訳注
- *1 Pomone:
- ポーモーナ(Pōmōna, Pomona)は、ローマ神話の果物を司る女神。 share.google
- *02 brisait:
- briser(壊す)の完了形。だが、太陽光線の形容に「壊れていた」とは何事かと暫く悩んだ
- *3 gerbe:
- 束。花束や穀物の束。だが、太陽光線の形容に(以下略
- *4 cierge:
- 西洋のキャンドルは、木蝋から造る和蝋燭と異なり、材料に鯨油・魚油ほか獣脂を使う。これに対して cierge は純粋な蜜蝋で造る、礼拝用の大蝋燭をいう。キリスト教会の典礼には必須のため、修道院でミツバチを飼い、巣板から蜜蝋を生産していた。それで典礼に合わせて cierge にも種類があり、しかし多くは教会用なので、これを家庭で灯すことは先ず無い筈。
- le cierge de communion 聖餐の蝋燭
- le cierge de la Chandeleur 聖燭祭の蝋燭
- le cierge de procession 行列の蝋燭
- le cierge funéraire ou cierge d'honneur 葬儀または栄誉の蝋燭
- le cierge pascal 復活祭の蝋燭
- le cierge votif 奉献蝋燭
復活祭用の大蝋燭はまことに大きく、子供の背丈程もある。これなら、太陽光線をこれに準えたのも無理もない。教会で見た大蝋燭を後になって思い出し、夕陽の形容に当てたとも考えられるが、さて。 fr.m.wikipedia.org ja.m.wikipedia.org

