悪の華
Les Fleurs du mal (1861)
Charles Baudelaire/萩原 學(訳)
死
LA MORT

122. 貧民の死
2版CXXII、3版CXLVII
LA MORT DES PAUVRES
ソネット形式 脚韻ABAB CDCD EEF EEF
画像は Wikipedia と Color Planet 塗り絵、及び National Gallery of Art から
哀しいかな!「死」こそが、慰めと生命を生す。
さては人生の目標、唯一の希望となる。
まるで霊薬のように、高揚と陶酔を為す、
夕暮れまで歩み続ける勇気をくれる。
C’est la Mort qui console, hélas ! et qui fait vivre ;
C’est le but de la vie, et c’est le seul espoir
Qui, comme un élixir, nous monte et nous enivre,
Et nous donne le cœur de marcher jusqu’au soir ;

嵐や雪や霜の中にあって、
漆黒の地平線に光、燦然たる。
書物に記された名高い宿にて、
食事をし、眠り、座ることができる。
À travers la tempête, et la neige, et le givre,
C’est la clarté vibrante à notre horizon noir ;
C’est l’auberge*1 fameuse inscrite sur le livre,*2
Où l’on pourra manger, et dormir, et s’asseoir ;
さても天使、磁力持てる指に
眠りと恍惚たる夢の賜物を宿し、
貧しく裸の人々の寝床を整え給え。
C’est un Ange qui tient dans ses doigts magnétiques*3
Le sommeil et le don des rêves extatiques,
Et qui refait le lit des gens pauvres et nus ;
神々の栄光、神秘の穀倉、
貧者の財布、古の故郷、
開かれた門、知られざる天国へ!
C’est la gloire des Dieux, c’est le grenier mystique,
C’est la bourse du pauvre et sa patrie antique,
C’est le portique*4 ouvert sur les Cieux*5 inconnus !
プッチーニ『ラ・ボエーム』
プッチーニ『ラ・ボエーム』はイタリア・オペラながら、舞台はパリ、時期はクリスマス、登場人物は貧乏人のボヘミアンなので、考えてみれば季節的に今頃の、この詩を見世物にしたようなもの。住む人と景色は、すっかり変わってしまったが……
改めて調べてみて、初演はトスカニーニの指揮だったことに2度びっくり。13. 『流浪の民』を意識していたかどうかは解らなかった。
オペラ『カルメン』初演&ジョルジュ・ビゼー歿後150周年に寄せて
これは全く意識していなかったが、マリア・カラスがタイトルロールを歌った CD は持っている。
このとき指揮を執ったジョルジュ・プレートルは、まだ駆け出しの若造であったが、マリア・カラス本人が見つけて来て、この男がいいと言ったとか。それでこの録音は、ジョルジュ・プレートルの出世作でもあり、なるほど張り切った響きが聞こえる。では肝腎のカラスの歌唱はどうかというと、ちょっと切ない。絶頂期だった50年代には、強力ドラマティックなソプラノとして声を張った歌唱であったのが、そのパワーは既に衰えている。衰えが見えるからこそ、少し低めの声なカルメン役が堂に入っていて。実際ステージでは歌わなかった役なのに、哀愁と妄執を湛えた「誰が本人を連れてこいといった」と有り得ない文句を付けたくなるような、実にカルメンな歌い方は、単に「歌が上手い」というのとは次元が違う役者ぶり。ただ、カラスのファンにはお勧めできないよなあ、と迷ってしまう、中々の迷作と言えよう。
自分としては、このオペラ自体そこまで好きではない。ロリン・マゼールが指揮してジュリア・ミゲネス=ジョンソンが歌った映画『カルメン』はそれなりに美しかったけれど、まあ通俗名曲の常で、1回見れば充分だ。ボヘミアンなカルメンの、工場労働者としての描写は正直どうかと思うし、プロスペル・メリメの原作からは乖離しているし、弄り倒して舞台装置が意味不明になっていれば、見て理解できないのも仕方あるまい。それより『ドン・ジョヴァンニ』もそうだったが、華やかなオペラに限って「死」で終わる話が多いよな、やっぱりギリシア悲劇の影響っていつまでも引き摺るものなのかな、などとつい余計な事を考えてしまって、そんな自分にうんざりする毎日である。
訳注
*1:「宿」については『54. 修復不能』で歌っているpoetlabo.hatenablog.jp
*2:マタイによる福音書25章 34 そのとき、王は右にいる人々に言うであろう、『わたしの父に祝福された人たちよ、さあ、世の初めからあなたがたのために用意されている御国を受けつぎなさい。35 あなたがたは、わたしが空腹のときに食べさせ、かわいていたときに飲ませ、旅人であったときに宿を貸し、36 裸であったときに着せ、病気のときに見舞い、獄にいたときに尋ねてくれたからである』。
*3:メスメリズム(動物磁気説)の顕れは、コールリッジ『年寄り船乗り』の影響であろうか。当時の描写を見ると、磁力線はまだ理解されていなかったことが解るja.wikipedia.orgpoetlabo.hatenablog.jp
*4:柱廊玄関(ポルチコ)は、12. 過去の人生 49. 毒薬 で既出poetlabo.hatenablog.jppoetlabo.hatenablog.jp
*5:Ciel「空」の複数形であるが、「複数の空」ではなく、より広大な「天」「天国」「天空」をいう



